人気脚本家が明かす2つの顔

クリニックでの取材時、「尿閉(尿意があるのに排尿できない状態)で入院しててね。前立腺肥大症の手術を控えてるんですよ」と、あっけらかんと語り、医師でありながら患者でもある自分をさらりと開示する姿に場の空気が一気に和らいだ
クリニックでの取材時、「尿閉(尿意があるのに排尿できない状態)で入院しててね。前立腺肥大症の手術を控えてるんですよ」と、あっけらかんと語り、医師でありながら患者でもある自分をさらりと開示する姿に場の空気が一気に和らいだ
【写真】和田さんがこれまで監督として手がけてきた映画作品

 後日、東京・本郷のクリニックを訪ねると、席につくやいなや問題提起が途切れることなく続き、10分でヒートアップ。医療制度への賛否を経て、コレステロールの話へ。

「僕は日本人にはコレステロールが必要だと思ってる派。高いと心筋梗塞のリスクはあるけど、免疫細胞や男性ホルモン(男女問わず元気になる)の材料にもなる。低すぎるとがんやうつになりやすい。メリットもデメリットもあるのに片方しか言わないんだもん。だから統計で検証しなきゃいけないんだよ」

 その視点は医療にとどまらず、交通安全週間中の防犯の手薄さ、スピード違反の取り締まり強化による自動車産業の競争力低下、相続税の低さが招くシニア世代の消費不況など、常識の“裏側”を立て続けに照らしていく。

「頭が良すぎるから、周りには変な人に見えるんだなって、最近思うんですよね」

 そう語るのは脚本家の大石静さん(74)。和田さんとは長年の親交がある。

「映画オタクで記憶力も桁違い。言いたいことのペースに口が追いつかないほど、頭の中に思いと知識があふれている。医療制度改革への考えも明確で、困っている人への優しさも、あふれるほどあるんです。

 あれだけ本が売れているってことは、共感してる人が多いんでしょうね。年寄りはすべてを諦めて静かにしてるのが美徳とされてきたけど、もっと生き生きしてていいんだよって主張に、勇気づけられた人が多かったと思います」

 大石さんは精神科医としての和田さんの患者でもある。

「うつっぽいと感じて、15年前に紹介されて、診察を受けました」

 以来、患者兼飲み友達としての付き合いが続いている。「映画や政治の話になると、情熱がほとばしりすぎて、頭がおかしいんじゃないかと思うときもあるんですけど(笑)、診察中は穏やかで、患者思いのいい先生です。私だけに優しいのかと思ったら、待合室でほかの患者さんとのやりとりを聞いて、誰にでもそうなんだとわかりました」

 大石さんの夫も和田さんの患者だった。

「夫は晩年、老人性うつで元気がなく、遊離テストステロン(男性ホルモン)の注射をしていただいてました。打つと明らかに気力が出るんですよ。先生は夫のグダグダした話も優しく聞いて、薬についても丁寧に説明をしてくださいました」

 日本で今主流の、薬で抑える精神医学とは、一線を画す。

「独自のスタンスで、今もすごく勉強されている。向き合うと心が休まる、頼れる先生です。2つの顔を持っていらっしゃる気がします」