恩返しをすることが仕事の原動力
取材中、吉田さんが何度も口にした言葉のひとつが「恩返し」。この言葉の出発点は、結婚1年目の1974年、長女のクリスティーナさんの誕生までさかのぼる。
生後4日もたたないクリスティーナさんの体調が思わしくなく、病院を受診したところ、命の危険があることが判明したのだ。
幸いなことに、シアトル子ども病院に入院して治療を受け、クリスティーナさんは快方に向かった。
安堵する吉田さんの頭に浮かんだのが治療費のことだった。国民皆保険制度がないアメリカでは、日本円で数百万円という大金が請求される可能性があったのだ。
「でも、病院から請求されたのはたったの250ドルで日本円で数万円。こんなに安いはずはないと思って確認したところ、『困ったときはお互いさま。こうしたときのために、私たちはチャリティーでお金を集めているんです。それよりも娘さんが助かってよかったですね』と言われて涙が出た。“チクショー、今に見とれ! いつか金を儲けて絶対、恩返しをしたる!”と決めたんです」
事業が軌道に乗って間もなく、吉田さんはシアトル子ども病院と姉妹関係にあるポートランドのドウエンベッカー子ども病院の理事を務めるようになり、2019年には20年間住んだ東京ドームよりも広い、敷地面積2万5000坪の自宅をランドル子ども病院に寄付した。ポートランド市内にある同病院は、難病の子どもや保険に加入していない不法移民の子どもを積極的に受け入れているそうだ。
「でも、まだまだ恩返しが足らんねん。僕の商売の原動力は、お世話になった人たちに恩返しをしたいという気持ち。『今に見とれ! 絶対、恩返しをしたる』って今でも思ってるんです」
その思いと同じくらいの熱量で、吉田さんに恩返しをしたいと思っている人もいる。その一人が食品メーカーに勤務する兼田佑子さんだ。
「以前、『ヨシダソース』を使った商品を企画した際、吉田会長とオンラインでお話をさせていただいたことがあるんです。緊張する私に、吉田会長はフレンドリーに接してくださいました」
その商品は発売されたものの、とある理由で多くの在庫を抱えることになってしまった。悩み落ち込む兼田さんに救いの手を差し伸べたのが吉田さんだった。
「アメリカから電話をくださり、『俺は4回も破産しかけた男や』『ピンチはチャンスやで』と励ましてくださったんです。次の日、出社したところ、某スーパーから在庫の商品を取り扱いたいという話が来ていました。会長がそのスーパーの社長さんに連絡をしてくださったんです。おかげで在庫をきれいに売り切ることができました。それ以来、会長には一生をかけて恩返しをしていこうと思っているんです」
恩返しの機会はほどなくやってきた。現在ファミリーマートで販売されている「ヨシダソース」とのコラボ商品には、吉田さんの顔写真が使われている。兼田さんは、顔写真入りのパッケージを後押しした立役者だ。
「そのコラボ商品に弊社も関わることを知ったんです。私はまったく違う部署なのですが、商品開発に関わらせてもらい、『パッケージに会長の顔写真を入れたほうが、絶対売れます!』と主張しました。私は吉田会長の人となりや人生を日本中に広めていきたいと思っているんです」
吉田さんいわく、ファミリーマートとのコラボ商品は好評を博しているそうだ。
「不思議なもので、金を追いかけても逃げられるけど、『恩返ししたる!』って人を追いかけると、金が入ってくるねん。僕は金儲けよりも人儲けがしたい。だからもう、お金なんかいらんねん」
そうきっぱりと言い切った後に、ヒソヒソ声で「まぁ、お金がいらんというのは建前なんやけどね」と舌を出して付け加え、いたずらっ子のような顔をした。世界に知られる経営者に対して失礼かもしれないが、吉田さんには「かわいい」「おちゃめ」といった形容詞がよく似合う。
その人柄について、吉田さんのファンである接遇コンサルタントの黒島慈子さんは、次のように語る。
「吉田会長と一緒にコストコで店頭販売を経験させていただく機会があったんです。アメリカ人のお客様は自分から会長に話しかけておしゃべりをしたり、記念写真を撮ったりしているのですが、日本人のお客様は少し離れたところから様子を見ていました。
会長はその方たちに自ら『こっちに来いや』と声をかけて、試食をすすめたりお話をしていました。皆さんと和やかに交流する姿を目の当たりにして、会長がおっしゃっている『金儲けよりも人儲けや』という言葉の意味をあらためて理解しました」
公私にわたる吉田さんの姿を知っている一人が、ヨシダグループ副会長のヘースー・ソリスさん。現在は吉田さんの右腕として組織を支えるソリスさんだが、出会いは30年ほど前にさかのぼるという。
「彼とは家族ぐるみの付き合いで、一緒に育ってきたような感覚があります。知り合ったころの私はまだ若く、彼は面白い人で、まじめな人でもあるという印象でした。2017年から一緒に仕事をするようになり、非常に情熱的に仕事に取り組む人だと感じています」







