問題を抱える多くの人に「一緒に考える人でいたい」

「被害の後、自分に何が起きたのか直視することができなくて……。『なんで家を出なかったの?』と聞かれるんですけど、考えられる状態じゃなかったんですよね。父にも話せないし、生活を変えようとか、そんな力もなくて。それで私は抜け殻になってうつになるのではなく、変に行動的になっていったんです。めちゃくちゃ遊んだんですよ。

 はたから見たらすごく元気に見えたでしょうね。後になってそれは『トラウマの再演』というもので、自分が受けた被害は大したことじゃない、と思うための行動だったんだということがわかったんですが、当時はそんなこともわからなくて」

 自身のレイプ被害について、そして性加害の問題に向き合った漫画『不同意性交』は昨年、インターネット上で連載され今年、書籍として出版される予定だ。

 映画化された『酔うと化け物になる父がつらい』を見ると、菊池は主人公がうらやましくて泣いてしまうという。

「私は『父に謝ってもらえないで終わっている』という思いがあるから、謝ってもらえた主人公を見るたびにうらやましくって。映画化されるときに『漫画にしていないことで、どういうことがありましたか? お父さんに何をしてほしかったですか?』と聞かれたんですが、そのときに『謝ってほしいですかね』と言ったんです。そのことを映画のストーリーに入れてくれたんですね」

 メンタルが落ち着いた菊池は最近、父と母の抱えていた苦労や悩みについて考えることがあるという。

父はサラリーマンのときに“東の菊池”と呼ばれるほど優秀な社員だったそうなんですが、働きながら行っていた夜間大学を中退したので、ボーナスが大卒よりも少なかったことに腹を立てて、お金の入っていた封筒を床に叩きつけたことがあったそうなんです。それは父の死後に同僚だった方に聞いたんですが、そんなこともあって独立したのかなと。

 でも独立してすぐに詐欺まがいのことに遭って借金を抱えて、家族に取り立てが来ないように書類上で離婚することも考えていたそうなんです。母の死後は男手ひとつで私たち姉妹のことを育ててくれたし、父なりに家族のことを考えていたのかなと。母も父のことが好きで、でも尽くしても振り向いてくれない。そして一生懸命に宗教を信じていたけれど、人生や家族とうまくいかないことに悩んでいたんですよね。そんな両親にも幸せなときがあったはずだし、彼らも人間として生きていたということなんだろうなぁと思えるようになりました」

 時がたち、振り返れば気づけることも、問題の渦中にいるとわからないものだ。問題を抱えた家庭内が高ストレスのかかった圧力鍋の中のような状態の一方、外からは中の危険な状況は見えづらい。だからこそ菊池は当事者と向き合い、ひとりでは声を上げられない人たちの経験を描くことで、

「一緒に考える人でいたい」

 と言う。

「私が漫画を描いたことで、自分と同じような思いをした人がいっぱいいることがわかったので、今後も取り組みたいのは、やっぱり家族関係の問題を抱える人たちのことですね。それはずっと描いていきたいなと思っています」

 菊池はこれからも悩む人の心に寄り添う作品を、世に問うていくことだろう。

<取材・文/成田 全>

なりた・たもつ 1971年生まれ。イベント制作、雑誌編集、マンガ編集などを経てフリーに。幅広い分野を横断する知識をもとに、インタビューや書評を中心に執筆。「おしんナイト」実行委員。