初の正社員生活を介護施設でスタート

2014年、宇治川にて。介護福祉士の資格を取り、生活支援員として働き始めて3年ほどたったころ
2014年、宇治川にて。介護福祉士の資格を取り、生活支援員として働き始めて3年ほどたったころ
【写真】ファンを夢中にさせた『東京少年』デビュー直後の笹野みちる

 そんな音楽活動の大きな区切りを迎えた笹野は今、介護士として福祉に従事しており、二足のわらじ生活を続けている。

「東京少年のころから、社会福祉には興味がありました。絶対に必要とされる職業だし、幼いときからずっと、勉強ができればそれでいいというだけの教育で育ってきたから。それでバンド時代の貯金ももうなくなってきてどうしようっていうときに、よくライブに来てくれていた方がグループホームを立ち上げるからちょっとバイトしないかって誘ってくれたんですね。

 最初に夜勤を一日体験したんですけど。本当に望んでいたものだと感じました。人との湿度と温度にホッとして。今までこういうことに触れてこなかったなーって

 福祉の世界との出会いのなかで、これから身を投じていこうと決意させる大きな体験があった。

「ホームから施設に通うための送迎車が来るので、車椅子の入居者の方をバス停まで送っていくんですね。建物からは300メートルくらいあるんですけど、ある日、送っていくときに、朝日がバーッて差してきて、その方のうなじに朝日が当たって、照らしたんですね。その情景にめちゃくちゃ感動して。

 なんていうか、命が本当に祝福されている瞬間だと感じて。そのとき、心からこの仕事をしたい!と思いました。その女性は言葉を話せないし麻痺もあって自由に動けないんですが、素直な喜びと悲しみっていうものがその人の中から出ていて。

 それ以降、出勤を増やして週に2回通うようになり、保育士の免許を取りたいと思って通信教育を受けました。1回落ちて2年目で合格。保育所でも週3日くらいで働いて、グループホームとダブルワークのバイトを3年ぐらい続けました。それでそこの所長さんとのご縁で、今は都内の生活介護施設で働いています。思えば、40代で初の正社員生活ですね」

 と、実に生き生きとした表情で語る笹野の目は、安らぎと喜びにあふれていた。笹野と共に働いていた元同僚のTさんが、職場での思い出を語った。

「私が職場体験に行ったときのことですが、東京少年のファンだったので、目の前の上司が『まさか』と、思わず二度見しました(笑)。職場でのみちるさんは、『いやいや、それはちゃうで』とか、真っすぐに自分の気持ちを職員にも利用者さんにも伝える、情に厚い人でした。

 施設で歌ってくれたときは、利用者さんも職員も、その場の空気がふわっと温かくなるような時間でした。気取らず、目の前の人のためだけに歌っている感じがしました。みちるさんは、音楽でも福祉でも、人に向き合うときの熱量が変わらない人です。あの時間を一緒に過ごせたことは私の大事な宝物です」