「死ぬのはやめよう」という医療

春休みは若者のオーバードーズでの補導が増えるという
春休みは若者のオーバードーズでの補導が増えるという
【写真】松本医師が「重度の依存症患者ではない」と感じたピエール瀧

 現代の子どもたちが抱える苦悩の背景には、SNS(Instagramなど)によるものが見え隠れする。

「人と自分を比較する頻度は多くなり、その中で多くの子たちが一般的に見たら可愛いといわれるような部類の女の子ですら、自分の顔の欠点みたいなものをいつも意識してコンプレックスを感じているんじゃないかと思っています。非常にメイクがうまいんだけど、メイクしないと外に出られない」

 そうした10代の女性が最初に頼る場所はドラッグストアだという。

「一般の人は、市販薬と聞くと、お医者さんから処方される薬よりも効果はちょっと弱いけど、害が少ないって思っているんじゃないかと。しかし、実際はそうじゃない。医療では絶対使わなくなった薬が売られています。子どもたちが危険にさらされていると思っています」

 そんな中で大人はどうしていけばよいのだろう。

「いろんなサインはあると思うんですが、その子らしくない行動があったときに、『何かあるんじゃないか』と、耳を傾けてほしいっていうか。子どもが簡単に話すとは思わないですが、聴く姿勢があるってことを見せることはとても大事なんじゃないかな」

 土日は講演などで全国を飛び回る。何もしない日は数えるほどしかない。家にいるときは「寝ているか、何かを書いているか、車を洗っているか」だと話す。また、忙しさのため家族はほったらかしで、育児にもろくに参加できなかったという。そのため、「育児なし(意気地なし)」と苦笑する。

 松本さんは長年にわたる愛煙家でもある。

「タバコだけはやめないっていう条件で結婚したんです」

 そう言って笑う。依存症の患者の「やめられない苦しさ」を理解しようとしてきた精神科医。自らもニコチン依存を自覚している。

「依存って、人間の弱さでもあるけど、人間らしさでもあると思うんです」

 理想論だけでは、人は救えない。だから松本さんは今日も診察室で患者に言う。

「やめられなくてもいい。でも、死ぬのはやめよう」

 その言葉に救われる人が、確かにいる。

<取材・文/渋井哲也>

しぶい・てつや ライター、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。新聞記者を経てフリーライターに。若者の自殺や生きづらさに関する取材を得意とする。主な著書に『ルポ自殺』(河出書房新社)、『学校が子どもを殺すとき』(論創社)、『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』(集英社新書)。