家族・スタッフ一丸でがんの母を介護

後ろ盾のない芸能界で、母・眞弓さんとは戦友でもあった
後ろ盾のない芸能界で、母・眞弓さんとは戦友でもあった
【写真】「いつもにぎやかな家庭」土屋アンナと4人の子どもたち

 しかし、眞弓さんがマネージャーに復帰した矢先の2024年、眞弓さんに膵臓がんが見つかった。ステージ3で余命は1年半と宣告される。病状は次第に進行し、やがて自宅での療養となった。土屋は仕事と育児をこなしながら、友人たちの力を借りて献身的に介護を続けた。

「ママを家に一人だけには絶対させないと決めました。長男に泊まり込みをしてもらって、私がごはんを作って届けるなど、動ける家族、友達、スタッフみんなにお願いして。血のつながりがないのにみんな親身になって助けてくれて、本当に感謝しかありません」

 まだ小さい長女と次女には病名を隠し、抗がん剤の副作用で髪の毛が抜けた姿には「これもファッションなんだよ」と伝えた。すると子どもたちは眞弓さんの絵を描いて贈ってくれた。

「金髪のママの絵を描いて、現実を華やかに見せてくれたんです。ママにとっては、孫たちの存在がものすごい力になったと思います」

 眞弓さんは余命宣告されてから著書『人生、あれかこれか』(小学館)を上梓した。土屋は「読みたくなったら読むよ」と伝えたが、眞弓さんは「あんたは読まないと思ってる」と、娘の性格を熟知した言葉を返したという。

「ママが書き残したものよりも、自分がママから何を受け継ぎ、どう生きていくかという実感を優先したいんです。だから今もまだちゃんと読んでいません」

 一度、眞弓さんが「あんたの子どもは自由でいいよね」「私もそんなふうに育てればよかった」と話したことがあった。それまでは、子どもを自由に遊ばせている土屋に対し「なんで言うこと聞かせないの?」と眞弓さんが怒ることもあったという。しかし、病気になり死と向き合う中で、眞弓さんは土屋の子育てに「合格点」を与えてくれた。

「この言葉をきっかけにママとの間にあった壁が完全に取り払われました。私は『子どもは騒いで当たり前』『無邪気なのはいいこと』と考え、他人に迷惑をかけなければ子どもたちがうるさくしていても怒らず、見守るスタイルをとっています。

 今思えばママは親として子どもを正しく導かなければならないという強い鎧を着ていました。シングルマザーでハーフの娘を育てるうえで、それはしょうがなかったのでしょう。ママが私の子育てを全肯定してくれたことにホッとして、本当の意味での世代交代が行われたのだと実感しました

俳優・歌手・モデルの土屋アンナ(撮影/矢島泰輔)
俳優・歌手・モデルの土屋アンナ(撮影/矢島泰輔)

 最期は自宅で静かに旅立った眞弓さん。享年67。土屋が子どものお弁当を作りに一度家へ戻ったとき、長男から連絡が来て、急いで戻ると、まだ手が温かかった。

人は死ぬ間際まで耳が聞こえているというので、一人ではなく、みんながバタバタしてる中で亡くなったのは幸せだったと思っています。言葉でもなく、ものでもなく、人が亡くなるという現実の死について学ぶことを母は最後に残してくれました。

 常に強くあろうとしてきた母親の鎧が、死に向かって剥がれていく過程を見られたのも大切な経験でした。だから悲しみにひたるよりも『サンキュー、ママ』という気持ちで見送ったんです」

 前出の佐伯さんは、毎日のように病院へ通って眞弓さんのマッサージをするなど、家族同然にケアしていた一人だ。

「亡くなった翌日に舞台があり、アンナちゃんは悲しみをこらえて踏ん張っていました。その姿を見て私のほうが泣いてしまって……」

 その後も眞弓さんがやっていた仕事の引き継ぎ、人間関係の整理、事務所の形を変える準備と悲しんでいる暇がなく、嵐のように現実がやってくる。それもまた「ママからのメッセージだ」と土屋は受け取っている。

「この人を大事にしなさい、こういう方向でいきなさいと、母が逝って初めて見えてきたことがあるんです。母の魂はずっと生きていると感じています。今までママが一人でやってきたけれど、私が一人で背負うのは無理。だからみんなで手をつないで部活のように会社を運営していくつもりです」

 現在、事務所の運営をサポートしているのは、土屋と20年来の付き合いがある会社社長・高根紳椰さんだ。プライベートでの友人関係だったのに、「うまく巻き込まれてしまった」と苦笑いする。

「アンナと仕事でからむと、これまでの良好な関係が変わってしまうのではという心配がありました。でも眞弓さんがいなくなった今、放っておけず、支えられるメンバーで運営していくしかありません」

 高根さんと土屋は、若いころ、お酒を飲むと互いに言い合いになり、絶交していた時期もあったという。

「『もう二度といいや』と思うほどケンカをして、半年ほど音信不通になりましたが、アンナから突然『ごめんね』というショートメールが届き、仲直りしたんです。アンナは普段はいい人すぎるほど周囲に気を使っているので、お酒を飲むと緊張から解放されて、たまっていた鬱憤が出てきてしまうのでしょう。

 でも嘘がなく、芸能人ぶることもなく、やっぱりすごくいい子なんです。今はアンナには『忙しいのはわかるけど、ちゃんと返信してほしい!』というのが切実な願いです。先日、『誕生日に何が欲しい?』と聞かれたので、『連絡が欲しい』と伝えました(笑)」