いろんな味の記憶を思い出してくれるようなものになれば

─料理や味の記憶って、思い出と強く結びついているものですよね。

「よく、“母の味は?”って聞かれるんですけど、真っ先に思い浮かぶのは、マ・マーのミートソース。こないだ久々に食ったらうまくて。おふくろの味、コンビニで買えるなって。子ども時代に毎晩、妹と2人で食べてたんですよ。母親が、僕の家庭教師代を稼ぐために夜までスーパーのパートをしてたから。久しぶりに食べておいしかったのは、そんな思い出ごと味わえたからかもしれない。

 ある食べ物に関して、僕にはこういう思い出があったけど、人によっていろいろなことが呼び起こされるんじゃないのかなって思うんですよ。僕がひとつの素材として書いて提供して、読んだ人たちが『私はこうだった』とか『それ嫌いなんだよね』『その嫌いなものを好きだって言ってた男と付き合ったことある』みたいな。読者がいろんな味の記憶を思い出してくれるようなものになればいいなって。

 ドラマも同じようにみんなでワイワイガヤガヤ話してもらえたらいいなと思います。

 実は僕の母が今年の1月に亡くなったんですけど、母とまた一緒に食べることとか、『じゃあまた作ってよ』なんて言ってた料理って、手作りのものとなると、もう二度と口にできないんですよね。

 それが普通のものだったとしても……というか普通のものだからこそ、とってもかけがえがなくて、もうそれが食べられないのかと思うんじゃないのかなって」

─いま、また食べたいと思い出す料理はありますか?

「そう、最近思い出したことがあって。美術制作の仕事をやっていたころ、『もう嫌だ。仕事行きたくない、どっか行こう!』と思って昼過ぎに家を出て電車に乗って、それで目についたのが秋田の田沢湖駅で。

 何にも決めてなくて、どこ行っていいかわからないから、駅を出たところに昔からやってるような町中華っぽい、おばあさんとおじいさんがやってる店に入って、『何にも決まってないんです』って言ったら、おばあさんがホテルを予約してくれて。

 心配されたんでしょうね(笑)。そこで食べたラーメン、おいしかったなぁ。その日はとっても寒くて、もう夕方で、死ぬかもしれないと思って食べたんですよ。暖を取るように食べたラーメンでした。あれ、また食べたいなぁ

─ドラマの放送はまだちょっと先のようなので、それまでに燃え殻さんのエッセイをぜひご一読いただきたいですね。

そうですね。原作を読んでいただいて、それがどうやってドラマになるかを見ていただけると、きっと楽しいんじゃないかなって。僕自身もそうやって楽しもうと思っています

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ドラマ『この味もまたいつか恋しくなる』主演 高橋一生 NHK 2026年秋以降放送予定 NHK〈BS〉〈BSP4K〉60分×2話

取材・文/成田全

『週刊女性』に連載された「シーフードドリアを食べ終わるころには」に加筆修正と書き下ろしを加えて書籍化。浅煎りコーヒー、生姜焼き定食、おにぎりと味噌汁、ミートソースパスタ、餃子と高級鮨、卵かけご飯、金目鯛の煮付けなど、とあるメニューを口にすると思い出してしまう、ちょっぴり切ないあの日、あの人との物語を展開するエッセイ集。