島倉さんが時折のぞかせていた“弱さ”

 島倉さんから、着物の着方や歩き方、お辞儀の仕方からステージでのしゃべり方など、演歌歌手としての心構えを教わったという多岐川。時には叱責を受けることもあった。

「島倉さんは、私の出演するステージの袖に立って、いつも私の歌をチェックしてくれていたんです。そこでMCがつまらないと楽屋で厳しく注意を受けることがありました。また、あるステージでは、袖に立っている島倉さんに私がお辞儀をして舞台裏に戻ったことがあったのですが、そのときは島倉さんから“こっちにお辞儀をして戻ったら、お客さまにお尻を突き出すことになる”と、きつく注意されたことがありました」

 叱責だけでなく、フォローも欠かさなかったという。

島倉千代子さん(右)とデビューして間もない多岐川舞子(左)(本人提供)
島倉千代子さん(右)とデビューして間もない多岐川舞子(左)(本人提供)
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「厳しく注意を受けた後、メロンゼリーをくださったり。褒め言葉も独特で、私がいいパフォーマンスができると、島倉さんは“よかったでした”を省略して“でした”と言ってくれるのですが、それが最高の褒め言葉でした。今振り返れば、新人が慢心しないようにという心遣いだったのだと思います」

 後輩の見本となるような島倉さんだったが、時折弱さをのぞかせることもあったという。

「普段は凛としていて、男っぽいくらいなのに、時折“自分は歌のことしかわからないから”とか、“歌詞を間違えるのが怖い”と、ぽつりと漏らすことがありました。実際、島倉さんの家にはトイレやタンスなど、自宅のあちこちに歌詞を書いた紙が張ってあり、いつでも忘れないようにしていたんです。でも、そういった不安は口にしていましたが、島倉さんから過去の金銭トラブルについての恨みつらみを聞いたことはありません」

 島倉さんは'13年11月、肝臓がんのため75歳で亡くなった。

「亡くなる前は病気の影響もあって、帯を締めるのが痛いとおっしゃって、幅を細くして負担を減らしていました。それでもステージに立って歌おうとした姿は忘れられません。私にとっては、本当に大きな存在で、いただいた教えも宝物です」

 困難に見舞われても、歌と人を信じ続けた島倉さんの生き方は、後輩たちに受け継がれているーー。