シューマイを60個完食も「覚えてない」
現在の日本には認知症を治す薬はなく、ひとたび発症したら元に戻ることはない。幸い文子さんは初期段階で、投薬治療で進行を食い止めている状況だ。
「1人で家にいても大丈夫だし、店にも1人でちゃんと来ることができる。食事は糖尿病用のお弁当を朝晩頼んでいて、自分で食べられる。そこはすごく助かっています」と矢部さん。
しかし、こんなエピソードも。
「私がゴルフのコンペでシューマイを賞品にもらったことがあって。12個入りを5箱です。でも家に帰ったらシューマイが見当たらない。まさか全部食べちゃったの?と聞いても、わからないって言うんです。60個ですよ。ゴミ箱を見たら包みがあって。全部食べたの?と聞くと、“途中で飽きたけど、お腹がすいていたから”って。
しかも、その後ちゃんとお弁当も食べているんです。そこにあるものを全部食べちゃう。一部の認知症では判断力の低下から食行動に変化が見られることがあり、満腹感を感じにくくなることもあるそうです。それからは家に余計な食べ物を置かないよう気をつけています」
ひっきりなしの電話も悩みのタネ。実際、取材中も文子さんからの着信が。どうやら、飼い犬に餌をあげる時間を尋ねているよう。
「同じことを何度も聞いてくるんです。仕事の移動中も5分おきに電話が来るから、周りも大丈夫なの? ってなって。認知症の人には怒らないよう心がけることが大切と言うけれど、もうこっちのほうが病みそうになっちゃう」
矢部さん自身、4年前に騎手の山林堂信彦さんと結婚し、家庭を持つ身。文子さんの暮らす家は東京で、夫婦の家は神奈川と、距離もある。日々の生活はどうしているのだろう。
「今は両方を行き来していて、8割はママと一緒にいる状態です。でも夫も理解してくれているし、全然いいよって言ってくれています。彼のほうが世田谷に来てくれることもありますね」
実家では文子さんと2人きり。顔をつきあわせる時間も多く、ストレスはたまりがち。
「ずっと関わっていると私のほうが疲れちゃうので、妹に任せたり、なるべく外に出たり、バランスを取るようにしています。それに、私がいるとべったり甘えちゃうので、自分でできることはなるべくさせないと。できるはずなんですよ、店ではできているんだから」












