10年という大きな節目

国民に向けたビデオメッセージで、生前退位の意向を示唆した上皇さま(2016年8月8日)写真/宮内庁提供
国民に向けたビデオメッセージで、生前退位の意向を示唆した上皇さま(2016年8月8日)写真/宮内庁提供
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 今年8月8日は、あの日から、ちょうど10年という大きな節目にあたった。

 当時、上皇さまは82歳で、高齢による体力面のさまざまな不安を感じていた。そして、終身天皇を前提とする制度の問題点にふれ、生前退位の意向を強く示唆したのである。

 天皇という立場上、現行の皇室制度に具体的にふれることは控えるとした上で、上皇さまはビデオメッセージで約10分間にわたり個人的な考えを述べた。当時の安倍晋三首相は、次のように記者団に語っている。

「天皇陛下が、国民に向けてご発言されたということを重く受け止めている。
(中略)ご公務のあり方などについては、天皇陛下のご年齢やご公務の負担の現状に鑑みるとき、天皇陛下のご心労に思いを致し、どのようなことができるのか、しっかりと考えていかなければならない」

 翌年の2017年6月、天皇陛下の退位を実現する特例法が成立した。2019年4月30日、陛下は退位し、5月1日、皇太子さま(現在の天皇陛下)が即位した。新しい時代「令和」が幕を開けたのだった。

 上皇さまの「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」の次の箇所に、私は感動した。

「私が天皇の位についてから、ほぼ28年、この間、私は、わが国における多くの喜びのとき、また悲しみのときを、人々とともに過ごしてきました。私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えてきましたが、同時に事にあたっては、ときとして人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えてきました。

 天皇が象徴であるとともに、国民統合の象徴としての役割を果たすためには、天皇が国民に、天皇という象徴の立場への理解を求めるとともに、天皇もまた、自らのありように深く心し、国民に対する理解を深め、常に国民とともにある自覚を自らの内に育てる必要を感じてきました。

 こうした意味において、日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じてきました。皇太子の時代も含め、これまで私が皇后とともに行ってきたほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした」

 上皇さまの長年の経験に裏打ちされたその一語、一語の持つ意味はとても重くて、深い。

 上皇さまは「象徴とは何か」を、いつもひたむきに、自らに問い続けてきた。その長く険しい旅路の果てにつかんだ答えが、「おことば」に凝縮されていると思う。

 何よりも「全身全霊をもって象徴の務めを果たしていく」という文章に、私は強く心を揺さぶられた。

 改正皇室典範が成立した。旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎えることで、これからも象徴天皇制は安定して維持できるのだろうかと、今でも疑問に感じている。上皇さまの「おことば」をじっくり味わいながら私は、もし養子や養親になる人たちが出てきたら、上皇さまが訴えた、その覚悟はできているのかと聞いてみたい。

<文/江森敬治>

えもり・けいじ 1956年生まれ。1980年、毎日新聞社に入社。社会部宮内庁担当記者、編集委員などを経て退社後、現在はジャーナリスト。著書に2025年4月刊行の『悠仁さま』(講談社)や『秋篠宮』(小学館)など