血管がボコボコと浮き上がってコブみたい。赤や青の細かい血管がクモの巣や網目状に見える。これは下肢静脈瘤という血管の病気。見た目だけじゃなく、むくむ、つる、かゆいといった症状があったり色素沈着や皮膚炎を起こすことも。10人に1人が患者予備軍という身近な病気なのに、知らないことがいっぱい。そこで下肢静脈瘤の第一人者、北青山Dクリニックの阿保義久先生に取材しました。

Q どんな病気? 何が起こってるの?

静脈には、脚から心臓に戻る血液が重力によって下へ逆流するのを防ぐ弁があります。この弁が壊れてしまい、血液が逆流してたまるため、血管が広がって肌に浮き上がって見えたり、ボコボコとコブのように膨れてしまいます。

【下肢静脈瘤の種類】

●大伏在静脈瘤 : 足首の内側から脚の付け根までを通って深部静脈と合流する大伏在静脈は、合流地点の弁が壊れやすく、下肢静脈瘤がもっとも発生しやすい。ひざ下や太ももの内側、ひざ下の外側、太ももの裏側にボコボコができる。

20150728_kashi_2

●小伏在静脈瘤 : アキレス腱の外側からひざ裏までの小伏在静脈にも静脈瘤が発症しやすく、ボコボコは足首やひざの後ろ側にできる。

20150728_kashi_3

●網目状静脈瘤・クモの巣状静脈瘤 : 網目状静脈瘤は、皮膚の下にある径2〜3ミリの静脈が網目状に広がる。クモの巣状静脈瘤(写真)は、皮膚内にある径1ミリ以下の静脈が広がったもの。ボコボコしないが、脚全体に広がることも。

20150728_kashi_4

●側枝静脈瘤 : 伏在静脈から枝分かれした静脈が広がって、ボコボコができる。伏在静脈瘤と併発する場合と、単独でできる場合がある。

Q 特徴的な症状は?

脚で血液が逆流して循環が悪くなると、うっ血してだるさを感じたり、強くむくんだり、湿疹が出ることも。ただ、症状の現れ方は人それぞれで、ボコボコができていても、ほかの症状をまったく感じない人もいます。

【下肢静脈瘤の症状チェックリスト】

□ 赤や青の血管がクモの巣や網目状に見える

□ 脚の血管が太く浮き出ている

□ 血管がボコボコとコブのように膨らんでいる

□ 歩行時や就寝中に、よくこむら返りを起こす

□ いつも脚にだるさ、重さ、疲れを感じる

□ だるさ、重さが進んで、痛みまで感じる

□ 脚がひどくむくんでいる

□ ひざから下の皮膚がいつもかゆい

□ 脚に湿疹が出て、なかなか治らない

□ 脚のシミや色素沈着が目立つ

□ 脚の傷が、ひどい潰瘍になってしまう

Q なりやすい人の特徴は?

美容師や客室乗務員など立ち仕事の人、デスクワークで座りっぱなしの人に多い。運動不足はよくないのですが、一方でマラソンランナーが受診に来ています。また、高身長で脚の長い人もなりやすいです。

Q 遺伝しますか?

下肢静脈瘤は遺伝する確率が高いと言われていて、親子で治療を受けに来る人も少なくありません。男女問わず発症しますが、相対的に女性に多く出産経験の多いほうがなりやすいようです。

Q 病院は何科を受診すればいいですか?

下肢静脈瘤は血管の疾患で、血管外科で診てもらうべきですが、日本の病院では心臓血管外科しかない場合があり、これは範囲が異なります。外科で血管外科の医師がいるかを尋ね、下肢静脈瘤の治療数が豊富な病院を選ぶといいでしょう。

Q 病院へ行かず、自分でケアできませんか?

壊れた弁は再生せず、血液の流れが自然と元に戻ることはありません。下肢静脈瘤は症状にそれほど緊急性がないため、手術をためらって放置する人が多いのですが、特に伏在静脈瘤は徐々に悪化していくので、次第に悪化してそのぶん治療が難しくなります。

Q 治療法は?

下肢静脈瘤には複数のタイプがありますが、医師が特に注目するのは伏在静脈瘤で、表面の血管でも比較的太い血管にでき、ボコボコとコブのように浮いてしまう疾患です。以前は、ストリッピング手術という患部の血管を引き抜くのが標準的な根治治療法でしたが、現在は血管内レーザー治療が広く行われるようになりました。傷痕を作らず回復も早く、さらには昨年から質のよいレーザーが保険適用となって、積極的に治療を受ける人が増えています。

Q 血管を引き抜いたり、閉鎖しても大丈夫?

大伏在静脈、小伏在静脈ともに、心臓のバイパス手術で代用血管として使われる血管なので、問題ありません。むしろ静脈瘤ができると、周りの正常な血管に対して有害なので、つぶしてしまったほうがよいと言えます。

Q 治療を受けたあと、再発の可能性は?

ストリッピング手術では、メスで作った傷の修復反応で新しい血管ができ、そこに静脈瘤が発生する場合があります。血管内レーザー治療の場合、そうした再発はありませんが、別の血管に発生する可能性は残ります。

Q 自分でできる予防策、再発防止策を教えてください

まずは立ったまま、座ったままを避ける。また、血液を心臓に引き上げるときは、横隔膜の上下運動や胸腔内の陰圧が影響するので、深呼吸も効果的です。さらに、こまめに水分をとって血液のドロドロ化を避けましょう。また、適度の運動も効果的な予防策。いちばんのおすすめは水中ウォーキングです。

Q 弾性ストッキングは効果がありますか?

弾性ストッキングは弁の負担を減らして静脈瘤を予防します。一般のものでもいいですが、病院で扱う医療用は圧力が高くさらに効果的。血液を心臓に戻すには脚の筋肉のポンピングも重要なので、適度な運動、さらに筋肉を弱めないことが大事です。

Q 入浴や足湯も効果がありそうですが……

長湯や足湯は血液循環を改善しますが、静脈はやわらかく温めると伸びやすいので、かえって血液がたまる可能性があります。長湯はほどほどに。

〈プロフィール〉

北青山Dクリニック院長・阿保義久先生

血管外科医の技術を生かし、下肢静脈瘤の日帰り根治手術を日本で初めて発案。以来、これまでの総治療数は25000例超という第一人者。

(イラスト/ヤマサキミノリ)