職場のストレスに「耐える」必要はない。自分の「ストレス耐性」を知る

 職場に限らず、日々、人間はさまざまなストレスにさらされています。ストレス反応を起こすストレッサーには、心理的なこと、気温の上り下がりといった物理的なこと、薬物などの化学的なことなどがたくさんの種類があります。

 季節の変わり目は体調を崩しやすいといわれますが、気温の変化に伴う物理的なストレッサーに身体が反応し、上手く適応できずに抵抗力などが落ちることに関係しています。ただし、高温や低温の状態が長く続くと体が慣れてストレスを感じにくくなります。予想を超えた過剰なストレスに対しては適応しにくくても、同じような状態が続くことで慣れていくわけです。これをストレス耐性といいます。

 そのため、職場でのストレスに苦痛を感じている人に、「ストレス耐性を高めなさい」とアドバイスする人もいますが、実はストレス耐性を高めることは容易なことではありません。なぜなら、体調を崩すような職場のストレスが、そもそも予想を超えるような過重なストレスだからです。

 この状態で耐えようとすれば、心身に悪影響を及ぼしかねません。確かにタフな人はいます。経営者では物事に動じない人もよく見かけます。しかし、それは昨日今日といった短時間で会得されたものではなく、ご自身の経験によるところが大きいといえます。ストレスに弱い人が、そもそもタフな人と同じようなことをしようとしても無理があるのです。

 過剰な職場のストレスから身を守るには、ド根性でストレス耐性を身につける必要はありません。「なんだか調子が悪い」と思ったときに、医療機関を受診するなど早めの対策が功を奏します。「自分はストレスに弱い」と認識を持ち、これ以上は耐えられないといったストレス耐性を理解しておくことが、メンタルヘルスでは役立ちます。

「怒り」がこみ上げてきたら「意識を他に集中」して深呼吸する

 世の中には、人に対して不快な思いをさせる言動を平気で行う人はいます。不愉快な言動を投げかけた相手が怒りや悲しみなどの表情を見せると、エスカレートすることもあります。このような人が上司の場合は、反論することなくひたすら我慢しなければなりません。そんなストレスを交わすには、意識を他に向けることがひとつの方法です。

 たとえば、「申し訳ございません」と頭を下げながら、ご自身の靴の状態を見るという人がいました。「平日、妻が靴を磨いてくれるのですが、通勤や外出で汚れていないか、新品を購入した方がよいかなどと意識を集中させるのです。すると、理不尽な相手に反撃したいとの強い欲求が薄れ、冷静になれます」

 誠実な相手に謝罪するときには、心から謝らなければなりませんが、理不尽な相手については、意識を上手くそらしてストレスをためないようにすることが大切です。

 また、ビジネスでは、冷静な判断力は欠かせません。部下がミスをしたときも、カーッと頭に血が上ることはありますね。しかし、部下を激しく非難しても、すでに起こった問題は解決できず、業務進行は遅れるばかりです。そんなときには、ご自身の呼吸に意識を向けると、冷静さを取り戻しやすくなります。

 緊張したときに優位になる交感神経は、ゆっくりとした呼吸により副交感神経に働きかけることで、バランスを保つことができるのです。カーッとなったときも同様です。

 仕事で不測の事態に陥ったときには、ご自身の呼吸に意識を向けて、深呼吸すると冷静さを取り戻しやすくなります。怒りや悲しみといった負の感情がこみあげてきたときには、ぜひ試してみてください。

仕事のミスで「自己嫌悪」に陥らない。「ありのままの自分」を受け入れる

 ストレス社会といわれる中では、心が折れそうなときはあるでしょう。同僚や友人に失敗したことなどの話をして、ストレス発散のはずが、逆にその出来事が思い浮かんで悲嘆する人はいます。

「自分で変わらなきゃいけないことはわかっているんです。でも、なかなか変えられない。本当につらいです」

 こう話す人もいました。しかし、中年期に差し掛かった人が、生まれ持った性格などを一変させるのは難しいといえます。それまでさまざまな経験によって形成された性格は、食事内容や運動習慣といった生活習慣は変えるように、簡単に本質を別人のように変えることには無理があります。

 自己嫌悪に陥る、あるいは、ご自身を変えようとする必要はありません。ありのままの自分を受け止めてください。

 仕事のパフォーマンスを上げるには、自分の欠点を把握してカバーすることが重要になります。そのためにも、ありのままの自分を受け入れて、自らの短所を客観的に把握することが必要なのです。

 仕事で同じミスを何度も繰り返すと非効率的でしょう。なぜミスが続くのか、他人に指摘されるよりも、ご自身で解明することが求められます。自覚することがポイントなのです。自覚できなければ、また同じ過ちを繰り返すことになります。ご自身を受け止め、欠点を把握して補うことを考えてください。