「短時間睡眠法」がもてはやされることがありますが、私はまったくおすすめしません。なぜなら、いわゆる「ショートスリーパー」はなろうとしてなれるものではなく、私の研究でも「短時間睡眠は遺伝である」ことがわかっているからです。

 サンディエゴ大学の調査が、睡眠時間と死亡率を調査したところ、死亡率が最も低かったのは、平均睡眠時間である7時間眠っている人たちでした。

 彼らを基準にすると、それより短時間睡眠の人は「6年後の死亡率が1.3倍高い」という結果になっています。薬物を使ってショウジョウバエの遺伝子に突然変異を起こしたところ、短時間睡眠のショウジョウバエは短命だったというデータもあるほどです。これらの結果から、「短時間睡眠の人は短命」といえそうだと、私は考えています。

「飲酒運転は危険」という認識はかなり浸透していると思いますが、実は睡眠負債を抱えたまま運転するのも同様に危険で、法の整備もなく、無自覚な人も多いことを踏まえると、飲酒運転より危険といえるかもしれません。

 睡眠負債があるとどうなるのか――これを調べたアメリカの実験があります。夜勤のない医師と夜勤明けの医師にそれぞれ、「タブレットの画面に丸印が約90回ランダムに出現する画像を5分間見て、図形が出るたびにボタンを押す」というテストをしてもらいました。

 すると、夜勤のない医師たちは正確に反応したのに対し、夜勤明けの医師たちは3~4回、数秒間図形に反応しないときがあったのです。脳波を見ると、なんと反応しない間、彼らの脳は居眠りしていました。恐ろしいのは、彼らが勤務中だったということ。

 夜勤明けの医師たちが陥ったこの状態をマイクロスリープ(瞬間的居眠り)といいます。「マイクロスリープは睡眠不足から脳を守る防御反応」ともいわれているのですが、要は防御反応が出るくらい睡眠負債は脳に悪いのです。仮に時速60キロメートルで運転していてマイクロスリープが4秒起きれば、70メートル近く車が暴走する計算になります。

よく眠れないと「デブホルモン」が出現する!?

 マイクロスリープが発生する以外にも、「睡眠負債」はさまざまな弊害をもたらします。

・インスリンの分泌が悪くなって血糖値が高くなり、「糖尿病」を招く
・交感神経の緊張状態が続いて、「高血圧」になる
・精神が不安定になり、「うつ病」「不安障害」「アルコール障害」「薬物依存」の発症率が高くなる
・「認知症」の発症リスクも上がる

 さらに、こういった病気以外にも、実は「肥満になりやすい」こともわかっています。

 眠りが足りないと、食べ過ぎを抑制する「レプチン」というホルモンが出にくくなります。反対に食欲を増進させる「グレリン」というホルモンがよく分泌されるという事態に。「やせホルモン」は出ず、「デブホルモン」は分泌されるわけですから、過食に走りやすくなってしまうことがおわかりいただけると思います。