目次
Page 1
ー 『ファイト!』に潜む“寄り添い”が織りなす作詞力
Page 2
ー 鳥居みゆきが熱弁、“涙活”としての名曲たち
Page 4
ー 往年のリスナーが振り返るANN伝説
Page 5
ー ディレクターが明かす“カリスマDJ”の舞台裏
Page 6
ー 謎多き歌姫の意外な一面と音楽へ思い
Page 7
ー 中島みゆきの半生

 1975年9月にデビューして以降、数々の名曲を生み出してきた中島みゆき。その歌声と叙情的な歌詞は今なお色あせることはない。彼女が50年にわたって愛され続けてきた魅力と軌跡を追うーー。

『ファイト!』に潜む“寄り添い”が織りなす作詞力

 中島みゆきが今年9月でデビュー50周年を迎える。

「北海道で生まれ育った中島さんは、1975年に『アザミ嬢のララバイ』でメジャーデビュー。常に音楽業界の第一線で活躍しており、1978年『わかれうた』、1981年『悪女』、1994年に『空と君のあいだに/ファイト!』、2000年『地上の星/ヘッドライト・テールライト』というシングルが4つの年代でオリコンチャート1位を獲得した唯一の女性アーティスト。工藤静香さんなど、ほかのアーティストへの提供曲もヒットを連発しました」(レコード会社関係者)

 音楽評論家のスージー鈴木さんに歌手としての中島の魅力を聞いてみた。

「あえてひと言で表すなら“女性、ひいては人間の内面を赤裸々に表現する人”と申しましょうか。初期は暗めで男性にフラレたという歌が多くありましたが、1983年時点で『ファイト!』を作るなど、初期のころから音楽家としてスケールの大きさを持っていたと思います」

 鈴木さんは『ファイト!』を中島の作家性がいかんなく発揮されている曲だと語る。

「中島さんは歌詞の中の登場人物に憑依して歌うことに優れています。『ファイト!』では進学できなかったことに悩む女性、罵倒されて暴力を振るわれる少年、駅で突き飛ばされた子どもを助けない女性、周囲に反対されて上京を諦めた女性、男性に虐げられて思うように生きられない女性など、閉塞感を抱えた人たちが群像劇のように出てきて、そんな曲の展開に合わせて歌い方を変えていくんです」(スージー鈴木さん、以下同)

中島が国民的歌手になり得た理由

 歌詞では人間たちの視点と並行して、魚の群れにも視線が向けられている。

「中島さんの故郷である北海道の鮭なのでしょうかね。流れに逆らい続けてボロボロになりながら泳ぐ魚たちに中島さんは“ファイト!”と呼びかけて、最後にはその魚たちが無事に命をつないだのか、子孫らしき小魚たちまで登場させる。まさに複数の登場人物が織りなす一つの物語。中島さんが国民的な歌手になりえたのは、歌がうまいことに加えて、さまざまな視点に立てる作詞力と、それらを表現できる歌い方のバリエーションの広さだと思います」