障害の遺伝を覚悟して2児を出産

 夏子さんが初めて婦人科の検診に行ったのは20代半ば。夫と付き合い始めてしばらくしたころだ。

 だが、冷たいひと言で門前払いされてしまったという。

「あなたは診察台に乗れませんよね」

 次々と断られたが、あきらめなかった。

「同じ障害の友人に紹介された先生に診てもらったら、あなたの子宮は普通の女性と同じ6センチ以上あるから、妊娠の可能性はあるわよと。身体はこんなにちっちゃいのにねぇ。妊娠を続けるのが苦しくなったら、出せばいい。できるところまでやってみましょうと言ってもらえて、あ、そっかと」

 28歳で結婚してすぐ会社員の夫の転勤で香川県に転居した。香川大学大学院で特別支援教育を専攻。同じ骨形成不全症の20代の女性たちにインタビューして論文を書き、修士号を取得した。

 論文を執筆中に待望の妊娠がわかった。

 だが、骨形成不全症は遺伝する。子どもが同じ障害を持つ可能性は2分の1──。

 夏子さんは心臓や肺も小さいため、母体が耐えられず、未熟児で生まれるリスクもある。

「何か問題があるだろう」

 そう覚悟して妊娠・出産に臨んだが、医師も拍子抜けするほど順調だった。

 2013年に香川県で長男を出産後、転勤で神奈川県に。翌年、長女を出産した。

理解ある医師に出会い、31歳で長男を妊娠。さまざまなリスクがあったが、35週で無事に帝王切開で出産
理解ある医師に出会い、31歳で長男を妊娠。さまざまなリスクがあったが、35週で無事に帝王切開で出産
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 2回とも35週で帝王切開により出産。体重はともに2100グラムで、少し小さいが元気な赤ちゃんだった。

「夫も私も遺伝すると思っていました。特に2人目の性別が女だとわかった瞬間、“絶対に遺伝するわー”と。今まで遺伝していない女の子は見たことないから」

 結局、2人とも障害は遺伝していなかったのだが、夏子さんは障害児を育てるつもりだったと聞いてビックリした。出生前診断であきらめてしまう夫婦もいるのになぜか。理由を聞くと、意外な答えが返ってきた。

だってね、それなりに育てていけばいいわけだから。私自身、障害があるから大変とか、障害がなければよかったって、本当に思ったことがないんです。誰にでも、やりたいけどできないことってあるわけで、私は歩けないけど、そのかわり、泳ぐのはすごく好きだし」

 だが、幼少期には1年に3回は骨折。病院のベッドで長い時間を過ごしていた。それでも大変ではなかったのか。

「もちろん、骨折すると痛いし、すごく嫌ですよ。でも、これくらいなら全治3週間とか自分でわかるんで(笑)。よく入院もしたけど、ビデオとかもいっぱい借りてくれたし、何かしら楽しみを見つけていましたから」

 どこまでも前向きな言葉をあっけらかんと口にする。