ひと皿で栄養フルコース!

 寮母3年目の’05年、ユース育成寮『しまふく寮』に移ってからは、より一層、本格的な仕事に取り組んだ。そこで明子さんは「アッコさん流・栄養満点ワンプレート」を編み出す。

取材した日の夕食も彩りが鮮やかで美味しそう! 60人分の食事を手際よく仕上げていた。メニューは牛すじの煮込み、焼き魚、野菜サラダ、めかぶとしらすのあえ物、野菜スープ、果物、ご飯はおかわり自由
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私がメニューを考えるうえで徹底しているのは、タンパク質の赤、カルシウムの白、ビタミンの緑、炭水化物の黄、鉄分の黒という5色の栄養が必ずそろう状態にすること。カルシウムと鉄分は摂取しにくいので、しらすやチーズ、わかめや海藻類を意識的に入れる工夫をしています。ワンプレートならこうした栄養素がひと目でわかるし、カラフルで、おいしそうに見える。洗い物も大幅に減らせます」

 1人1食当たり7枚もの皿を使うため、忙殺されていた洗い物の時間は大幅カット。一気に効率化が進んだ。加えて、食材の余りも格段に減り、いいことずくめだった。

「今ある食材からメニューを考える」という主婦ならではの発想に転換したことも大きかった、と明子さんは言う。

「ほうれん草のおひたしを作ろうと思うと、冷蔵庫の中がほうれん草でいっぱいになってしまうことがよくあった。企業の寮では1か月分の献立を先に出しているところもありますけど、やっぱり肉や魚、野菜をちょうどいい分量でそろえておくのは難しいですよね。“あるもので今日何を作るか”と考えると楽になり、その工夫をすることにも、やりがいを感じるようになっていきました」

 厨房でイキイキ働く明子さん。その料理を食べる選手たちにも、前向きな気持ちはしっかり届いていた。当初はユースに所属し、’09年まで札幌でプレーしていた元日本代表DF西大伍(鹿島)は、こんなエピソードを明かす。

「自分の誕生日になると“何が食べたい”って聞かれるんで“ジャガイモが食べたい”と言ったら、すごくおいしいジャガイモ料理を作ってくれたのをよく覚えています。

 18歳ってサッカー選手にとってすごく大事な時期なんです。トップに上がると練習もハードになるし、身体のことも真剣に考えなきゃいけない。あの時期にアッコさんの料理で過ごせたことはすごくプラスになっています」

元日本代表の西大伍選手(鹿島)と明子さん

 しまふく寮には村野一家が住み込めるよう3LDKの部屋が設けられていた。明子さんは寮生たちの母として深い愛情で接し、晋さんは厳しい父親として毅然(きぜん)と振る舞った。

「オフシーズンのときだったかな、夜中に廊下でサッカーをやってたら、晋さんから“おい、お前ら何やってんだ”と怒鳴られたんです。寮にはユースの選手もいて、彼らは休みじゃない。配慮せずに僕らが騒いでいたのを見逃せなかったんでしょう。そういう晋さんの横で、やさしいお母さん役のアッコさんが、黙って見守ってくれたからこそ、安心してサッカーに打ち込めた。感謝しかないです」

 しまふく寮は18部屋で、高校生と若手プロ選手25人の面倒を見ていた。

 しかし、’08年末に別れのときが訪れる。管理部長から寮長、GMへと昇格した晋さんがJ2(Jリーグ2部)降格の責任を取って辞任することになったからだ。選手を息子のように慈しみ、可愛がっていた明子さんにとってもつらく悲しい出来事だったが、「私は夫とともに人生を歩む」と札幌を離れる決断を下す。涙を流してくれた選手もいた。感極まった明子さんは若者たちの成功を願い、寮を後にする。