仕事なんて辞めればよかった

週刊女性を手にする赤松さん 撮影/矢島泰輔
週刊女性を手にする赤松さん 撮影/矢島泰輔
【写真】一見コワモテだが、ユーモラスな赤松さん

 ホームレスや除染作業員の経験がある赤松さんだが、かつてはゴルフ場関連のビジネスに携わり、月収200万円の生活を送っていた。その一方で、娘さんは境界性人格障害を患って引きこもりになってしまう。赤松さんはワンルームマンションで、自死のおそれがある娘さんと向き合う生活を2年ほど送った。

娘とふたりで暮らしながら、仕事を続けていたんです。でも、仕事なんて辞めて、ずっと娘に寄り添っていればよかった。なんであのとき、娘と一緒におられるようにできなかったんやろう……

 実は現在、『ボダ子』のスピンオフ的な小説の出版が進んでいるそうだ。

「以前から親しくさせていただいている作家の寮美千子さんが、『ボダ子』を読んで長い感想文を送ってくださったんです。お礼の電話をした際に、娘と暮らした2年間を書いていないとご指摘を受けました。私としては、幸せな時間だっただけに書くのはきつい。でも寮さんには、“その覚悟がないのに小説家をやるな”と言われました

 赤松さんは別の編集者から、その2年間を娘視点で書いて、と提案された。

『ボダ子』赤松利市=著 新潮社 ※記事中の写真をクリックするとAmazonの紹介ページへにジャンプします

「そのことを知った中瀬さんが“読みたい”と言ってくれて。“うちから出さなくてもいいから書きなさい”と背中を押してくれました。というわけで、540枚納品していた長編を没にして新たに書き下ろしを書いています」

 問題作といわれている『ボダ子』だが、実は女性の読者が多いという。

先日も都内を歩いていたら若い女の子に、“『ボダ子』読みました、ハグしてください”って声をかけられて、“妊娠するで”って言うたら“かまいません”って(笑)。まさか、こんな小説が受け入れられるとは思わんかった。ほんまに、担当さんのおかげです

ライターは見た!著者の素顔

 今回が初の女性誌の取材だという赤松さん。ホームレスの経験から、おすすめ(?)の屋外宿泊スポットを教えてもらいました。「夏は墨田川公園が気持ちよかったです。桜の木の下の草むらはおばあちゃんのホームレスの縄張りなんやけど、缶コーヒーを1本持って行くと寝かしてもらえるの。っていうても、おばあちゃんと寝るんやないです。横で眠るだけです(笑)」。ちなみに、ホームレスの寝具の基本は段ボールなのだそう。

(取材・文/熊谷あづさ 撮影/矢島泰輔)

PROFILE ●あかまつ・りいち●1956年香川県生まれ。2018年『藻屑蟹』で第一回大藪春彦新人賞を受賞。他の著書に『鯖』、『らんちう』、『純子』などがあり、本作は4冊目となる。世界的な植物病理学者の父を持ち、アメリカで暮らした経験のある帰国子女でもある。