ちなみに「HIV」で同様に検索すると3176報となる。年間に100報以上の論文がコンスタントに発表されている。梅毒に対して、いかに医学界が関心をもってこなかったかがわかるだろう。

 状況が変わるのは2015年だ。10報の論文が発表される。その後は2016年10報、2017年8報、2018年16報となる。

 私を含め、多くの医師は梅毒患者を診察した経験が少ない。梅毒の初期症状である陰部や口腔内のしこり、鼠径部のリンパ腺腫脹、さらに数カ月後に生じる赤い発疹(バラ疹)を見ても梅毒と気づかず、何となく抗生剤を処方し、治癒している医師が多いのではなかろうか。

 梅毒の治療の基本は早期診断、早期治療だが、多くの医師は知識不足だ。自戒を込めていうが、多くの医師は梅毒を見落とし、これが蔓延をもたらした可能性は高い。

外国人が梅毒を拡散させたエビデンスはない

 ほかの理由として、グローバル化をあげる人もいる。梅毒に感染した外国人がやってきて、国内で性交渉をもち、拡散させたというものだ。ただ、私が知る限りこのことを示すエビデンスはない。

 私たちの研究所で、この問題を研究する山本佳奈医師は「SNSの普及が影響している可能性が高い」と言う。

 彼女は、悪い外国人がやってきて、国内で梅毒を撒き散らしているというよりも、SNSの発展によって、世界中の若者の性行動が変わったのではないかと考えている。梅毒に限らず、クラミジアなどの性感染症が増加しているのも、このためと考えている。

 彼女がSNSの中で、とくに注目しているのは出会い系アプリだ。

 アプリに登録すると、登録情報を基に自らの好みに合う相手を推奨してくれる。相手も自分も気に入れば、交渉が成立し、両者の間でメッセージのやりとりが可能になる。

 ネット上には「出会い系アプリで知り合って結婚した」などの体験記が氾濫している。アプリの開発も日進月歩のようで、「結婚前提のマッチングアプリ」を推奨するようなサイトもある。結婚するカップルもいるのだから、マッチングアプリで知り合って性交渉を持つ男女の数は相当数に上るだろう。