抗生物質の取り扱いにも問題あり

米国 ●スーパー薬剤耐性菌が全米に広がる

 薬剤耐性菌の感染者は全米で年間280万人、3万5000人が死亡している。2018年には、食中毒を起こすサルモネラ菌の薬剤耐性菌に92人が感染し29人が入院したと報告。鶏肉が原因とされている。問題のサルモネラ菌は、生の鶏肉を使った商品から検出されたほか、生きた鶏からも見つかった。

 薬剤耐性菌は、食用の動物から人間にうつるという感染経路があり、米国をはじめとして先進国では動物への抗生物質の投与を問題視している。2015年から米マクドナルドでは、抗生物質を飼育時に投与した鶏の肉の使用を段階的に中止。鶏肉供給者に打撃が予想されたが、薬剤耐性菌の対策を優先する形となった。

 対策が進んでいる米国だが、実は衝撃的な事実がある。抗生物質にはいくつか種類があり、段階的に使用していくが、最後の切り札といわれる抗生物質が効かないスーパー薬剤耐性菌、いわゆる多剤耐性菌が発見された。最初は東海岸からで、今では全米に広がっている。死亡者の報告もあり、対策が急がれている。

東南アジア&途上国 ●抗生物質の取り扱いにも問題

 薬剤耐性菌の感染拡大の中心は東南アジアや南アジアなどの開発途上国。調査体制が整っていないことがいちばんの問題で、世界的な課題とされている。特に衛生上の問題から大腸菌などの腸内細菌の薬剤耐性菌が多くみられ近年、注目されている。

 東南アジアでは菌の感染拡大だけではなく、抗生物質の取り扱いにも問題が山積。医師の処方がなくても薬局で抗生物質が購入でき、自動販売機でも売っているほどで、消費量の増加が著しい。

(取材・文/山崎ますみ)


教えていただいた人 具芳明先生
総合内科専門医、感染症専門医。国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター 情報・教育支援室長。国立感染症研究所、東北大学などを経て2017年より現職。薬剤耐性(AMR)対策を推進するための教育啓発や医療現場の支援において中心的な存在として活動を行っている。