生きていけない……殺到するSOSの声

 労働組合が行う電話相談にも非正規労働者からのSOSが後を絶たない。

「正社員には休業手当が出るのに、パートの私は休業を強いられても手当がゼロ」

「お客様にスマイルを見せられないからと、マスク着用が禁じられている」

 こうした声が労働組合『ジャパンユニオン』(以下、ユニオン)に3月11日時点で160件ほど寄せられている。

 ユニオンには2月からコロナ関連の相談があり、実態把握のため2月24日、「新型コロナウイルス関連集中労働相談」を実施。その日だけで36件の電話相談があった。

 その後も継続的に相談を受けており、2月29日時点での労働相談は以下のような統計にまとめられている。相談件数のべ116件。最も多い相談内容は「休業手当の不払い」など休業関連が36件(33・6%)。次いで「マスク着用の不許可」などが27件(25・2%)、「いじめや嫌がらせ」が11件(10・3%)と続く。

ジャパンユニオンによる電話相談の様子。店舗閉鎖や倒産の連鎖が危ぶまれる
ジャパンユニオンによる電話相談の様子。店舗閉鎖や倒産の連鎖が危ぶまれる
【写真】悲痛な声が続々…ジャパンユニオンのスタッフが電話応対する様子

 筆者(樫田)は2月24日と3月11日の2回、電話相談の現場にいた。時々はユニオン相談員から電話を代わってもらい相談者とも話をした。結論から言うと、正規労働者も厳しい現実に直面するが、非正規は生活が成り立たないところまで追い込まれている。

●非正規・トリプルワークの50代女性の場合

 関東地方でひとり暮らしをする清水茜さんは、3つの仕事をかけ持ちして月収は約18万円。節約の限りを尽くすギリギリの生活だ。

 仕事のひとつは、飲食店での調理補助。週1度の勤務で月6万円を得る。だが2月下旬、店のオーナーが「コロナ騒ぎでキャンセルが増えていて、ごめんね。次は休んで」と電話してきた。ところが翌週も「今週も休んで。そのかわり、違う曜日に出て」と連絡が入る。オーナーが指定した曜日には別の仕事が入っていたが、清水さんは時給のいい調理補助の仕事を選んだ。もうひとつの職場からは当然、いい顔をされなかった。

 オーナーに言われて調理補助に入ったその日、終業時にまた「来週も休んで」と言われた。清水さんは「わかりました」と力なく答えた。

「でも、ごめんねと言われても、このペースなら月6万円を失うんです。それで何の保証もない。これでは生きていけません」(清水さん)

 清水さんはすがる思いでユニオンに電話をしたのだ。電話を受けた須田光照書記長はこんなアドバイスをした。

「休業命令は会社側の都合。その場合、会社は、正規・非正規を問わず、従業員に最低でも賃金の60%の休業手当を払う義務があります。もし会社に同じような仲間がいれば、オーナーへの支払いの直訴や労働基準監督署に相談するのもいい。泣き寝入りする必要はありません」

●パート先で自主休業を強制された女性の場合

 石川雅恵さんは医療クリニックで働く事務員だ。職場では唯一のパート職員で週3回、勤務している。2月に入ると、院長が「コロナ感染予防のために1週間ほど休業してほしい」と要請してきた。

「でも変なのは、院長が“自主的に休め”と言っていることです」(石川さん)

 須田さんは「従業員が自分の意思で休む場合は休業手当を払う必要がない。院長はそれを狙っています。でも“自主的に休め”というのも強制です。証拠を残すため、ICレコーダーでの録音をすすめます」とアドバイスした。