理想の生き方、理想の死に方

 ドリームマップでお客との距離を縮めて、創業以来の親身な応対で心に寄りそう。そうした努力の積み重ねで、地域の人たちに愛される場所になってきたのだろう。

 これらの取り組みが評価され、'17年に「第1回みんなで選ぶ薬局アワード」で最優秀賞を受賞した。同賞は創意工夫している薬局を表彰するもので、全国からたくさんの応募があった中から、ヒルマ薬局が選ばれたのだ。

「おばあちゃんが100歳を超えたら、もう一度ギネス記録に挑戦したい」

 康二郎さんは新たな夢を抱いている。だが、当の本人は記録にも長生きにもあまり興味がないようだ。

「働けることが幸せ。私のほうがお客さんから元気をもらってるの」と笑顔を見せる榮子さん 撮影/伊藤和幸
「働けることが幸せ。私のほうがお客さんから元気をもらってるの」と笑顔を見せる榮子さん 撮影/伊藤和幸
【写真】ギネス記録証を手に、挑戦し続ける榮子さんと康二郎さん

「私はここまで長生きしたんだから、もう明日でも、いつ死んでもいいのよ。行きたいところにも行ったし、後悔は何もないもの。家族が朝起こしにきたら、もう一生を終えていた。そういう死に方がいいなーと思う(笑)」

 老後を心配して、くよくよ悩んでいるお客がいると、榮子さんはこんな言葉をかけている。

「先のことは、どういうふうに変わるか。それこそ、地震でもくればわからない。戦争でも起きればわからない。今だってロシアとウクライナは、どうなっちゃうか……。

 考えてもわからないのだから、今のことを考えて幸せに暮らせればいいんじゃない」

 一日が終わったら、ごほうびのビールを飲むのが、今の榮子さんの楽しみだ。

 そして、次の朝、目が覚めたら、今日もまた生かされていることに感謝して、みんなが待つ薬局に向かう。

〈取材・文/萩原絹代〉

はぎわら・きぬよ 大学卒業後、週刊誌の記者を経て、フリーのライターになる。'90年に渡米してニューヨークのビジュアルアート大学を卒業。'95年に帰国後は社会問題、教育、育児などをテーマに、週刊誌や月刊誌に寄稿。著書に『死ぬまで一人』がある。