認知症家族の夢を叶えた教室

 ドリームマップの導入をきっかけに、ヒルマ薬局で新たに取り組み始めたことは、ギネス挑戦以外にもいろいろある。

 その1つが5年前に始めたフラワーアレンジメント教室だ。講師の資格を持つスタッフの渡邊清子さん(58)が書いた夢を、康二郎さんが後押しして実現した。

 毎月第4土曜日の午後3時から店内で行われている教室を見せてもらった。この日の参加者は3人。76歳の女性は3回目の参加だという。

「たまたま土曜日にお薬を取りにきたら、お教室をやっていて、まあ素敵!と。上達とかよりも、楽しく気軽にできるのがいいわよね」

 渡邊さんが用意した桃の花やチューリップ、ガーベラなどを思い思いにアレンジしていく。30分ほどで華やかな花籠が完成した。

スタッフの渡邊さんが資格を生かして始めたフラワーアレンジメント教室 撮影/伊藤和幸
スタッフの渡邊さんが資格を生かして始めたフラワーアレンジメント教室 撮影/伊藤和幸
【写真】ギネス記録証を手に、挑戦し続ける榮子さんと康二郎さん

 認知症カフェを兼ねているので、当事者やその家族が参加することもある。榮子さんと康二郎さんは、ある高齢女性の喜ぶ姿が忘れられないと口をそろえる。

 その女性は、夫が認知症になってから怒りっぽくなり悩んでいた。康二郎さんたちはお客にもドリームマップへの参加を呼びかけており、女性はこんな夢を書いた。

「お父さん(夫)ともう一度笑顔で食事をしたい」

 あるとき、女性は薬を取りにきたついでにフラワーアレンジメント教室に参加。その花を持って帰ると、夫に変化が表れた。

「康二郎は立派ですよ」と榮子さん。働く姿からも信頼関係が見えた 撮影/伊藤和幸
「康二郎は立派ですよ」と榮子さん。働く姿からも信頼関係が見えた 撮影/伊藤和幸

「どこに行くんだ」

 それまでは女性が出かけようとすると束縛するので外出もままならなかった。そんな夫が花を見て笑顔を浮かべて喜んだのだ。

 夫は自分で花に水をあげるようになり、それ以来、女性がヒルマ薬局に行くときは快く送り出してくれるようになった。

 昨年、夫は亡くなったが、「ちょっとでもお父さんが笑顔を取り戻せてよかった」と女性は感謝を口にした。

「本当は涼しいところに置くとお花が長持ちするんだけど、お仏壇の見えるところにお花を飾っているのよ」

 今も女性はほぼ毎回、教室に参加して、講師役の渡邊さんにこう話しているそうだ。渡邊さんは喜んでくれる人がいる限り、教室を続けていきたいと張り切っている。

「美味しいものが食べたい」ドリームマップにこんな夢を書いた女性客もいる。89歳の女性は夫を亡くしてひとり暮らし。歯が悪くて食べ物をうまく噛めないが、どこの歯科医に行っていいのかもわからないという。

 康二郎さんたちが歯科医を紹介して治療を開始。長い時間がかかったが、また好きなものを食べられるようになり、とても喜んでいたそうだ。