「死んじゃおうと考えてるの?」とストレートに聞いてみる

 都内で自営業を営んでいた60代のCさんは、新型コロナ蔓延の影響で倒産に追い込まれた末に自己破産。生きる理由を見失い、相談窓口に通う日々を送っている。それでも、

「せめて妻子に保険金を遺してやりたくて、気がつけば死ぬことばかり考えるように。自分が不甲斐なくて押しつぶされそうです」と口ごもる。

 周囲がほんのわずかな異変に気づくことが、自死を防ぐカギとなる。

「実際に自殺未遂の経験がある人が最も危険。それ以外にも、睡眠障害、自責などの、うつ症状が明確に出始めている場合にも注意が必要です。ただ、こういうサインが表出せず、気づきにくいケースもたくさんあります。もし、『大丈夫かな』と思うようなら声をかけ、『もしかして死んじゃおうとか考えてるの?』とストレートに尋ねるのが、最も効果的。意外でしょうが、そう聞いて衝動的に自殺を図る人はほぼいないんです」(影山教授、以下同)

 自殺への誘惑につながるような、外部からの情報を極力伝えない気配りも肝。

「よく知られているものに“ウェルテル効果”があります。簡単に言えば、有名人の自殺に影響され、連鎖的に自殺が増えるという社会現象のことです」

 心が疲弊している時には、とりわけ悪い情報に過敏になりがち。「自身にとって痛手」なものや「わが身と重ねて同調してしまうような出来事」などの情報は、思わぬ結果を引き起こしかねない。

 自死へと走る人のほとんどは、その直前まで「死にたい」と「生きたい」の狭間で葛藤を続けているという。もし、そのタイミングで誰かが声をかけられるなら、結果は違うものになるかもしれないのだ。

 WHO(世界保健機関)をはじめ、世界の自殺対策の分野には「ゲートキーパー」という概念がある。悩んでいる人の自殺のサインに気づき、適切な対応で見守ることができる人のこと。そのノウハウを医療・福祉事業従事者に限らず、広く知ってもらいたいと、厚生労働省、東京都福祉保健局などの行政機関が認知に向け公開している。「身近な人がふさぎ込んでいるけど、デリケートな問題だし、声のかけ方がわからない」といった場合の参考になる。

なにより大切なのは、つらそうな人をそのままにしないこと。そして次には素人判断でなく、公共機関などの専門家に助けを求め、アドバイスを受けることが大切

 自殺未遂から助かって回復した人のほとんどは「死ななくて本当によかった」と口にすることが多い。その声を聞くためには、たったひと言をかけるだけでもきっかけとしては十分かもしれないのだ。

取材・文/オフィス三銃士


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