「痛み」の治療に特化した『富永ペインクリニック』。頭痛、腰痛、関節の痛みはもとより、全国でも珍しい性交痛外来のオンライン診療も実施。県内外から多くの患者がアクセスしている。だが、その歩みは決して平坦なものではなかった。「私は常に戦っている」そう話す眼差しの先には貧困や暴力、地域格差により“なかったことにされてきた多くの人たち”の痛みがあった。

心と身体の「痛み」に向き合う女医YouTuber

 真っ赤な口紅と赤縁メガネの女性、刺激的な文言が印象的なYouTubeチャンネルがある。

 発信するのは富永喜代さん、愛媛県松山市にある「富永ペインクリニック」院長だ。

「私はいつも挑戦者ですね。誰もなし得なかったことをする。そして、それを恐れない」

 そう語る富永さんのYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』のチャンネル登録者数は17万人超え、総再生回数は3200万回にも及ぶ。著書の発行部数は累計62万部でテレビタレント顔負けの『インフルエンサー』だ。

 同チャンネルで取り上げられるのは、男女の性愛や性交痛、勃起障害、更年期障害など、性にまつわるものが多い。

富永さんのチャンネルより。刺激的なテーマと思いきや内容は医学的

「エッチな動画を投稿しているのも、実は狙いがあるんです」(富永さん)

 その真の狙いこそ、本稿で明かされる富永さんの医師として、人としての志に深く関わっている。

 かねて富永さんが行きつけの松山市内にある中華料理店『門福』の門田勇店長(50)は次のように語る。

「まさか地元からYouTuberが生まれるとは、思ってもみませんでした(笑)。富永先生の動画は一見エッチですが、実はものすごくまじめで勉強になる。医学的な話もとてもわかりやすいんです」

『門福』の店主、門田さん 写真/北村史成

 YouTube動画の編集業務を担う富永ペインクリニックのスタッフ、大森英子さん(48)もこう述べる。

「院長からYouTubeチャンネルを開設すると告げられたのは、2020年5月のこと。もちろん2人とも動画配信なんて素人。二人三脚で手探りでやってきました。動画のタイトルに驚く人もいますが、動画での先生の姿は普段と全然違います(笑)」

 一体どういうことなのか。

「私、普段はほとんどすっぴんなんです。そもそも50歳を超えるまで化粧もしたことなければ、数年間、美容院に行かないこともありましたね。ただひたすら医師として、また富永ペインクリニックの院長として一点突破でやってきた。これが私の半生ね」

『ペインクリニック』の「ペイン」とは英語で「痛み」のこと。ペインクリニックとは、痛み治療を専門にする病院だ。具体的には、頭痛、肩こり、首痛、肘痛、腰痛、膝痛、手足の指痛などの痛みにブロック注射や内服薬などのアプローチで治療を行う。

 日本でのペインクリニックの歴史は、1962年に東京大学医学部麻酔科外来に端を発するといわれている。その歴史からペインクリニックの医師には、麻酔科出身者も多く、富永さんもそのひとり。

「手術で麻酔をしないことなんてありませんよね。麻酔科は、外科から内科、呼吸器科、産婦人科、ときに救急外来までどんな分野にも対応して、患者さんの全身の状況を把握しないといけない。私も勤務医時代には、456gの超低出生体重児から104歳の高齢者、ときに一流プロスポーツ選手の手術まで2万人以上の手術に立ち会ってきました」(富永さん、以下同)

同クリニックの待合室。モダンな設えでホテルのラウンジのよう 写真/北村史成

 その豊富な臨床実績で培った的確な診断によって、一命を取り留めた人も少なくない。

「先日は、左肩の痛みを訴えた男性が実は心筋梗塞でした。また頭痛を訴えた患者が脳卒中だったことも。がんの痛みも打撲の痛みも『痛い』という言葉は同じですが、その人がなぜ痛いのかを的確に見極める、その“目”を養うために、その目的以外のものを捨ててきたんです」

 痛みの先に重大な病気が潜んでいることもある。それを見つけ、判断できるかは、医師の資質にかかっているのだ。

 富永さんの営むクリニックでは、患者は1階で診察やブロック注射などの治療を受け、2階では鍼灸治療などの東洋医学の治療を受けられる。さらに最新のフィットネス機器が並ぶ3階のジムでは、マシントレーニングに加えて、ヨガやピラティスのレッスンも受講できる。

 この痛みへの多角的なアプローチは、「痛みのワンストップ治療モデル」として経済産業省が公募した「平成26年度健康寿命延伸産業創出推進事業」にも採択された。いわば国からの“お墨付き”事業ということだ。

「痛みを積極的に緩和して健康寿命を延ばして、不必要な医療費や薬の費用を抑えることは国の医療費の削減にもつながる構想です」

 そんな富永さんの日常の様子を前出の大森さんは次のように明かす。

「この構想に限らず、院長は、常に新しいアイデアを生み出している人。普段の口癖は“負けるもんか!”。隣でパソコンを打っていると思ったら突然、“頑張れキヨちゃん!”と言い出すことも。常に自分と戦っているのが、伝わってきます」

 そんな富永さんを頼って通院していた患者からの手作りのお礼の品が院内には飾られている。

「手指が痛くて諦めていた趣味のかぎ針編みができるようになった」という患者から贈られた美しいレース編みやちりめん細工の品もあった。痛みを抱えてきた患者の回復の喜びが直に伝わってくるようだ。

 凄腕の臨床医で経営者でインフルエンサー。その華やかなイメージは、まるでスーパーウーマンのよう。しかし、その道のりは、けっして平坦ではなかった。