認知症の初期症状が出たら?

「僕がよくお話しするのは、自分だけで抱え込まずプロに任せてくださいということです。家族だけで介護するのは限界があります。中には認知症のご両親と息子さんが共倒れになったケースもあります」

 いきなり老人ホームに入居させるのは、介護放棄したような後ろめたさと罪悪感が生まれることも……。そういうときは、ショートステイから始めて様子を見るのがおすすめだそう。

「自分の親が粗相をしてしまうと、元気だった姿を知っているだけに『なんでできないの!』とつらくあたってしまうこともありますが、施設に預けて週に何回か面会に行くようにすれば、お互いの気持ちも安定しているので、笑顔で会うことができます。やっぱり身内に怒鳴られたら、おじいちゃんおばあちゃんも不安になってしまいますから」

施設長は見た!「介護現場」の事件簿

「あの人たち付き合っている!」と嘘のゴシップ話を言いふらすおばあちゃん

 当時35歳の僕が80歳の入居女性と付き合っているという噂が施設で流れました。もちろんそんな事実はないのですが、噂を言いふらしている女性患者のAさん(86歳)は自慢げに“あんた知ってる?”と僕の話をしています。

 Aさんは大のおしゃべり好きで以前からあることないこと話されているタイプ。このような症状は「作話」といって、本人は嘘をついているつもりはなく認知機能が衰えているために起こること。

 このとき大事なのは相手を否定したり責めたりしてはいけません。否定されると周囲に敵意を持ち始め、どんどん症状が悪化してしまうのです。僕もやんわりと否定も入れながらAさんの話に耳を傾け、納得してもらうことで事なきをえました。

大音量でAVを流す、元校長先生

 ある日、入居者の娘さんが僕に相談をしてきました。「父が昼から大音量でAVを流している」と。このお父さんはもともと厳格なタイプで現役時代は校長先生をされていた方でした。

 娘さんは大変ショックを受けたのですが、これは「性的逸脱行為」といって認知症の問題行動のひとつ。卑猥なことを言う、性器を見せる、性行為を迫るといった行動が目立ってきたらもう中期の認知症であると考えられます。

 このような行動は「自尊心を保つため」ともいわれていて、大きな声で叱ったり、怖がったりすると逆効果です。笑顔でかわしたり、落ち着いた言葉で嫌と伝えましょう。日中の活動量を増やしてもらい、エネルギーを性的な方向からそらすのもおすすめです。