自分や身の回りのニオイを意識する

 “たかがニオイ”と思うのは間違い。全身の働きが弱くなり、認知症の発症も引き寄せる

 加齢により起こる嗅覚の低下。調理で香りに触れる機会が多く、喫煙率が低いため、一般的に女性のほうが低リスクといわれるが、鼻の不調を抱えている人は注意が必要だ。

慢性的な鼻の病気も嗅覚低下の原因に!

慢性副鼻腔炎、花粉症を含むアレルギー性鼻炎はリスク要因になります。喫煙も嗅覚低下の原因となりますから、本人に喫煙習慣がなくても家族に喫煙者がいる場合はリスクになりうると考えます」

 と話す三輪先生。嗅覚が衰えると食べ物の腐敗やガス漏れなどに気がつかず、生活でさまざまな困難を招くが、そうなるまで気がつきづらく、あらかじめ備えられないことも問題だと指摘する。

慢性的な鼻の病気がある人は、まず耳鼻科受診を。嗅覚低下のリスクを取り除こう
慢性的な鼻の病気がある人は、まず耳鼻科受診を。嗅覚低下のリスクを取り除こう
【写真】難聴と認知症の関係をグラフでチェック!

「視覚や聴覚の衰えは、見えない・聞こえないという不便を想像できますが、嗅覚が衰えたときにどういう感覚になるかを想像するのは難しいのではないでしょうか。新型コロナウイルスに罹患(りかん)した患者さんが嗅覚障害の症状に驚くことは多いですが、“なってみないとわからない”というのが嗅覚低下の特徴だと思います」(三輪先生、以下同)

味覚の変化も併発し活力低下につながる

 さらに、ニオイがわかりづらくなると日常の不便を生み出すだけでなく、心身への影響も計り知れない。

「嗅覚が衰えると味覚が変わるため、自然と食べる量が減って、心身共に活力が衰えるフレイルや筋肉量が減少していくサルコペニアに結びつくと考えられます」

 食欲低下によるエネルギー不足から外出や他者との交流が減り、うつや軽度認知障害につながることも懸念される。

「まだ十分には解明されていませんが、嗅覚が衰えてニオイの刺激が脳に行かないことがアルツハイマー型認知症のリスクファクターの1つになるとも推測されています」

 また、アルツハイマー型認知症を発症している人のほとんどが嗅覚低下を引き起こしていることから、嗅覚低下にいち早く気づくことで、認知症の早期発見、早期治療に着手できることも期待される。

「家族との食事で自分だけ料理の香りがわからないということがあれば、嗅覚が衰えている証拠。特に、カレーのニオイがこれまでと違うと感じるようになったら、嗅覚の低下を疑っていい。病院で原因を調べたほうがよいでしょう」

 家族が体臭を気にしなくなったり、香水が強くなったりしたら、嗅覚が衰え始めているかもしれないので注意を。

「嗅覚低下の予防には、ニオイを意識して嗅(か)ぐ“嗅覚トレーニング(嗅覚刺激療法)”が効果的です」

 香りを意識的に嗅ぐ習慣を身につけることで、嗅覚を鍛えることができる。トレーニングは、4種類の香りを各15秒ずつ順番に嗅いでいく、という簡単なものだ。さらに、週3回以上汗をかくほどのエクササイズで、10年後に嗅覚が低下する確率が3割程度減ったという論文も。

「研究段階ですが、男性は乳製品、女性は大豆やパンなどを食べることで嗅覚低下を予防できるというデータも」

 毎日の習慣で認知症予防ができるならぜひ取り入れたい。

食事で予防するなら

男性……乳製品
女性……大豆・納豆、パン、果物

耳鼻科医のすすめる鼻トレ

 朝晩2分で嗅覚キープ!

【1】4種類の好きな香りのアロマオイルを用意する。ドイツでは、バラ・ユーカリ・レモン・丁子(クローブ)の4種が推奨されている。

【2】 毎日朝と夜の2回、用意した4種類の香りを各15秒嗅ぐ。「これはバラの香り」など、香りを意識して嗅ぐことが重要。

教えてくれたのは……三輪高喜先生 ●金沢医科大学副学長。耳鼻咽喉科学・主任教授。耳鼻咽喉科・頭頸部甲状腺外科センター長。嗅覚障害、味覚障害の診断・治療を専門とする。著書に『カレーの匂いがわからなくなったら読む本』ほか。

〈取材・文/河端直子〉