懐メロを聴いて耳と脳を刺激!

 ぼんやり聞いていると音の認知機能は錆びつくばかり!“聴く”を意識した生活が重要

 早い人では50代から始まる加齢性難聴。

「携帯電話がどこで鳴っているか、救急車がどの方向から来ているか、わかりづらいと感じたら、耳の衰えのサインです」(坂田先生、以下同)

なんの音か認識できない“脳の難聴”が危険!

 そもそも耳の衰えはどうして起こるのか。

 簡単にまとめると、音は耳に入ると、内耳の蝸牛(かぎゅう)内で電気信号に変換され周波数が決定。そこから聴神経を通って大脳に伝わり音として認識される。加齢性難聴では、内耳(蝸牛内)の有毛細胞が経年劣化で変形し音を把握しづらくなるうえ、そのことによって脳へ伝わる音の刺激が減少。音を認知する機能が衰え“何を言っているかわからない”という状態を引き起こす。

認知症の発症は、この“脳の難聴”が深く関係すると考えます。さらに、難聴による脳幹機能や扁桃体の衰えは、睡眠の乱れやうつにもつながるので注意が必要です」

 ところが、「日本人は加齢性難聴に気づきづらい傾向がある」と警鐘を鳴らす坂田先生。というのも、加齢性難聴は、高い周波数(高い音)が把握できなくなるところから始まるが、日本語は英語に比べて抑揚が少なく低い周波数が中心なため、日常会話で困らないことが多いからだ。

「補聴器が必要で利用している人の割合は、日本の14%に対し、イギリスは47%。約3倍も違います。それだけ英語を話す欧米圏の人のほうが生活で聴きづらさを感じやすいということです

井戸端会議で脳に刺激。聴く力が活性化する!

 では、加齢性難聴を予防するには、どうすれば?

 例えば、耳鳴りなどの治療でも服用されているビタミンB12や内耳の抗酸化に効くコエンザイムQ10、αリポ酸を含んだ食べ物を積極的に取り入れるのが効果的。また、内耳を興奮させるカフェインや、ヘッドホンやドライヤーなど耳の近くでの爆音をできるだけ避けることが耳の衰え予防になる。

 そんな中、坂田先生がもっともすすめるのは井戸端会議。

「複数人が発する抑揚のある会話を聴き取るのは脳にとてもいい刺激になります。特に、リズムが一定の標準語より、高低アクセントの強い関西弁のイントネーションは、より脳を活性化するといわれています

 コロナ禍など、誰かと話すというのが難しい場合を想定し、1人でできる耳のトレーニングも習慣化したい。

聴き取る力が衰えてきたシニアは、孫など声の高い人との会話もトレーニングになる
聴き取る力が衰えてきたシニアは、孫など声の高い人との会話もトレーニングになる
【写真】難聴と認知症の関係をグラフでチェック!

重要なのは、ボーッと“聞く(hear)”のではなく、意識して“聴く(listen to)”時間を持つこと。テレビの音がちゃんと聞こえていても、内容が入ってこないときがありませんか?それは、音を認知する脳の機能がきちんと働いていない状態だから。脳が“聴く”訓練をすることで、難聴を遠ざけ、認知症のリスクを軽減できるはずです」

難聴リスクを上げるNG習慣
●カフェインを含む緑茶・紅茶・コーヒーなどをよく飲んでいる
●ヘルペスウイルスが原因の耳性帯状疱疹など疾患がある
●毎日、ドライヤーを4分以上使っている
●有機溶剤を使ったカラーリング剤で毛染めをしている

耳鼻科医のすすめる耳トレ
【1】思い出のある曲を聴く
「記憶に残っている音楽は、よりよい脳への刺激になります。高音が多いメロディーであれば、内耳のトレーニングにもなりますよ」

【2】ラジオを聴く
「耳からの情報だけで内容を理解する時間を持つことが、脳の活性化に。複数人での会話についていけなくなるのも防げます。朗読などを録音したオーディオブックもおすすめ」

【3】自然の音を探しながら散歩をする
「“これは何の音かな?”と考えながら散歩することで、耳と脳を同時に鍛えられます。また、散歩などの有酸素運動は内耳の血流をアップさせて正常な働きを促します」

教えてくれたのは……坂田英明先生 ●「川越耳科学クリニック」院長。埼玉医科大学客員教授(耳鼻咽喉科)。めまい、耳鳴り、難聴などの原因や予防法をメディアでも発信。『難聴 聞き取りをよくするCDブック』など著書多数。