介護職と利用者は対等な関係であるべき

「在宅ケアハラの加害者となりやすいのは、昭和初期生まれの人に多いと感じます」

 と話すのは、介護アドバイザーの高口光子さん。ケアハラには、日本の介護福祉の政策にも原因があるという。

 戦後に核家族化が進み、1963年にできた『老人福祉法』では対象の高齢者は行政が指定する施設に入所した。その後、在宅介護のシステムも作られる。

「今とは人権の考え方が違ったため、これは自治体が権限を持つ行政処分のひとつだったんです。高齢者の幸せ(福祉)には重きを置かれませんでした。その財源は税金ですので、介護職にとっての雇い主は行政。

 利用者に対して『お国の金で、タダで介護してやってる』という意識の人もいて、サービスの質がいいといえませんでした」(高口さん、以下同)

 それも今でいえば、利用者へのケアハラだ。だんだんと政府の高齢者政策が財政を圧迫し、高齢者の費用負担も増えていく。2000年に『介護保険法』が制定されると、今度は利用者が自由にサービスを選択でき、事業所と直接契約をするようになる。

「それまで“上から目線”になっていた介護現場の意識を変えるために、『利用者はお客様』『利用者の満足度を上げていこう』という教育が行われました。すると、今度は利用者側に『俺は客だぞ。金を払っているんだ』と言う人が出てきたんです」

 しかし、事業者に支払われる金額の大部分は公費だ。さらに介護サービス、つまりホームヘルパーの仕事は法律で決まっており、一般的な“サービス業”と同じではない。

「今は介護職と介護サービス利用者が関係を模索する過渡期。社会的にもハラスメントが問題になり、世の中が少しずつ変わってきていますが、まだ昭和世代には、ハラスメントの概念が浸透していません。

 介護現場でもケアハラが浮き彫りになることで、お互いがより良い関係になれればと思っています」

 ただし、家族間の関係が影響するハラスメントについては、対処が難しいと語る。在宅介護の現場にも高齢の親が、ひきこもりで中年の子どもの生活を支える「8050問題」の波が来ているのだ。

「私が見聞きするのは、お母さんと息子さんが多いのですが、世間が狭い息子さんがケアのやり方が少しでも気に入らないと、ホームヘルパーに対して厳しく当たったり、セクハラ的な言動をするケースも。ケアマネジャーなど含め、複数人で対応を考えていく必要があります」