「ギャップを埋める存在になってほしい」
そう話すのは、妊活情報サイト「妊活の歩み方」をプロデュースするプロゴルファーの東尾理子さんだ。自身の妊活経験を基に、正しい情報を伝える活動を行う中で、西村と対談した経緯がある。
「技術は進んでいるのに、社会に受け入れられないという閉塞感があります。着床前検査や卵子凍結しかり、議論になることはたくさんの方に知られる機会につながります。そのうえで、『自分たちはどうするか』という話になることが大切。選択肢を増やすためにも、トピックにならないといけない」(東尾さん)
知名度と発信力のある西村だからこそ、生殖補助医療に関する認知の間口を広げられるのではないかと東尾さんは期待する。『にしたんARTクリニック』は、同業では異例ともいえる夜10時までの診療。全国対応の無料相談窓口まで設ける。ビジネスパーソンの「不」を解決するためだ。
「私との対談後、西村社長は夫(俳優の石田純一さん)が経営する焼き肉店をサプライズ訪問してくださったんですね。その場にいたお客さんの会計をすべて払って、『また石田さんの焼き肉店に来てください』って。みんながどうすればハッピーになるかを考えている方。
型破りだけど誰かのために動ける人だからこそ、変えてくれるのではないかって思います」(東尾さん)
全国に不妊・生殖医療を提供するクリニックは、600施設以上あるといわれる中、『にしたんARTクリニック』は、開院から2年半ほどで来院者数ナンバーワンにまで躍進している。
未来のために地方に活気を持たせたい
北海道のほぼ中央に位置する、東川町という人口約8400人の小さな町がある。今年2月、西村氏はこの町の「地方創生アドバイザー」に就任した。無限に広がる雪原で遊ぶ愛娘(まなむすめ)の姿を見て、感じたことがあったという。
「お金じゃないんですよね。子どもたちを高いレストランに連れていっても、結局、『マクドナルドに行きたい』ってなる(笑)。自分の子ども時代を振り返ったとき、大変だったかもしれないけど無邪気に喜ぶ物事もあったわけですよね。
お金をかけなくても楽しめることってたくさんあります。そういう考え方になればなるほど、いい仲間が集まるようになりました。お金に縛られなくなったら、むしろお金が入ってきた」
西村が親しみを込めて「師匠」と呼び、CMで共演した『高須クリニック』の高須克弥院長は、笑いながらこう話す。
「お金ってね、誰かのために使ったほうが入ってくるの。人のために使うのは、あの世への積立金みたいなものだから」
そして、「西村社長は仲間ですよ」と語る。
「同業種の人からCMオファーがあったのは初めて。社員からは、『同業他社なんだからやめてくれ』って言われたけど、面白いアイデアだから僕は引き受けた。面白いことは何でもやってみようという人とは馬が合う。僕もそうでしょ?(笑) 違う角度から見られる人じゃないとダメなんだよ」(高須院長)
違う角度から考えることができるから、西村は型を破ってきた。
「少子化対策や地方創生を真剣に考えていきたい。国力というのは、やはり人口の増加が欠かせない。僕は本気で、『にしたんARTクリニック』だけで年間5万人の出生を目指す。生まれた子どもが大人になったとき、日本が魅力的な国であり続けてほしい。そのためには地方に活気がなければいけない。理解を促すために何ができるか、あらゆることを考え、実行していく」
1月から3月にかけて、ミュージカル『ケイン&アベル』が東京と大阪で上演された。観劇した西村は、改めて思いを噛み締めることができたと頷(うなず)く。
「生かせなければ何が財産だろう」
劇中に登場する歌詞である。ケインとアベルは、経済的な成長を追うがあまり、後悔を招くことになる。だが、「お金に縛られなくなった」と話す西村誠司の“これから”は、きっと二人が果たせなかったハッピーエンドを飾るはずだ。

取材・文/我妻弘崇
あづま・ひろたか フリーライター。大学在学中に東京NSC5期生として芸人活動を開始。約2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経て独立。ジャンルを限定せず幅広い媒体で執筆中。著書に、『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー』(ともに星海社新書)がある。