1冊分の原稿の初稿を半月で書く
堂場さんはデビュー以来、毎年、10冊前後の新刊を上梓し続けている。驚異的な刊行スピードの裏側を教えてもらった。
「原稿用紙換算で1日55枚、原稿を書きます。それ以上書くと疲れてしまう。巡航速度としてはちょうどいいんですよね。時間でいうと5時間くらいです。ただ、労働時間が5時間というのは、働く人間としていかがなものかと思いますが(笑)」
猛烈な仕事ぶりに驚愕する取材スタッフを前に、堂場さんは「慣れですからね」と平然とした様子。1冊分で500~600枚の原稿の初稿は半月ほどで書き上げるそうだ。
「初稿はまったく人に見せられない状態です。そこから10回ほど推敲して仕上げられるようにスケジュールを組んでいる感じですね」

超人的な仕事量をこなす堂場さんのタイムスケジュールとは?
「朝は7時前に起きて、満員電車に揺られながら8時ごろまでに仕事場に出勤。午前中に2時間くらい原稿を書きます。お昼ごろからジムに行ったり昼食をとったりして、また2時間ほど原稿を書きます。夕方からはゲラを読んだりする作業になりますね。19時ごろに仕事場を出て、自宅持ち帰り残業で1時間ほど原稿を書きます。夜は12時くらいまでに布団に入りますが、そこから海外ミステリを読んだりするので寝る時間は遅めです」
編集者との打ち合わせや取材の対応も堂場さんの仕事のひとつだ。
「新作を書くときには、月の前半に集中して執筆するんです。最近は僕のパターンを読まれているらしく、月の後半に打ち合わせや取材が入るのがありがたいです」
そうした仕事の合間にメールの返信もこなす。
「後で返信しようと思っても忘れてしまうので、メールを受信したら原稿を書く手を止めてすぐに返すようにしています。その後、スムーズに執筆に戻れればいいのですがそうもいかず、ついついYouTubeのショート動画で変化球の投げ方なんかを見たりしちゃうんですよね。1分の動画でも10本見れば10分になってしまいますし、短時間でできる暇つぶしというのは危険ですよね」

堂場さんの頭の中にはすでに、来年刊行される7~8作品の構想があるそうだ。
「ほかにも、その後の作品になりそうなモヤモヤとしたものがありますね。まあ、仕事のほかにすることがないので、いろいろと妄想するしかないんです」
普段の仕事ぶりについて、20年以上の付き合いになる集英社文庫編集部の伊藤木綿子さんは次のように語る。
「弊社では、才能豊かな刑事チームを描いた警察小説『ボーダーズ』シリーズを毎年12月に刊行しています。刊行の半年前には原稿をいただき、刊行するころには翌年の分の概要が届きます。ゲラのお戻しもメールの返信もすべての対応が早い方なので、堂場さんの担当の方はみなさん助かっていると思います」
堂場さんは今年の後半に刊行200冊目の節目を迎える。それを記念して、出版社の垣根を越えた「全国ツアー the200」を開催中だ。
「いわゆる書店訪問で、これまでも書店さんに伺ってサイン会をしたり、トークイベントをしています。それに“ツアー”と名前をつけたということです。今のところ『全国ツアーって何だよ!?』とツッコまれてはいませんし、言ったもん勝ちですね」
全国ツアーの発案者は堂場さん本人だそう。
「基本的に新しい作品の執筆にあたっては、専門家に話を聞いたり、舞台になる場所に足を運んだりと取材をします。ただ、コロナ禍のときは、取材に行きたくても行けませんでした。そのときの思いが爆裂し、行けるときに行っておこうと全国ツアーをしているんです」