食べ物は日常に接続されている記憶
今泉監督が『この味もまたいつか恋しくなる』を読んだ感想を話し始めます。
今:普段、小説とかエッセイをあんまり読まなくて、しかも読むのめちゃくちゃ遅いんですけど、これはスラスラ読めました。
燃:ありがとうございます。
今:読んでいて思ったのは、燃え殻さんが子どものころのことだったり、家族の話を書いたエッセイを読むのは初めてだったなって。
燃:それはあるかも。今回は「食を切り口にして、思い出す人を書いてほしい」と編集の方から言われて。食べ物は日常に接続されているから、そのメニューを食べると、自然と思い出すことがあったんですよ。
チャーハンを食べると「父親が初めて作ったチャーハンまずかったな」とか、そういう思い出がダーッと引きずり出されてくるみたいで。だから、自分の書いたものの中で集大成っぽいなと思っていて。知り合いのライターさんからは「なんか、最終回みたい」って言われました。
今:死なないで(笑)。でも「すごいものを作るぞ」というテンションで始まってないのに、できあがってみたら一番自分らしさが出てるすごいものになるって、理想ですよね。今はまた、小説を書き始めたんですよね?
燃:書いてます。でもどうやって書くのかまったく忘れてしまって……自分が書いた『これはただの夏』を読み返しています。
今:たまにありますよね。俺も全然脚本が書けなくなって、どう書いたんだろうと思って、自分のオリジナルの脚本を読み返します。
燃:でもデビュー作は、恥ずかしすぎて読めない!
今:どういう恥ずかしさなんです?
燃:書いていたときの七転八倒を思い出すんです。本にするために最後に原稿を直さないといけないってときに、担当の編集さんと渋谷のサイゼリヤに朝並ぶんですよ、開店前に。それで閉店までやるんです。
今:オープンな缶詰め!(笑)
燃:あと一章分足りなくて、そこで書かされたんですけど……そういうことを思い出しちゃうんです。
今:過去のことを思い出しちゃって、サイゼリヤに行けなくなっちゃうことはないんですか?
燃:それは大丈夫。
今:それで言うと、俺はキリンの淡麗グリーンラベルのロング缶で思い出しちゃうことがあって。昔、渋谷の映画館でバイトしてたんですけど、バイト終わりに公園で同じバイトの女の人と一緒にグリーンラベルを飲んで過ごす時間があって。俺はその子のこと好きだったんだけど、フラレてて(苦笑)。
後に、その子には自主映画に出てもらったこともあったんですけど、出てもらうからにはいいものにしなきゃって頑張って。その映画がグランプリ取ったんです。でも、コンビニでロング缶を見かけると、やっぱり“うぅっ”てくる。
燃:僕はスタバがダメで、そうなりますね(苦笑)。
