自分が知ってる世界じゃない

 業界人から誘われる会食、おふたりとも思うところがあるようで……。

:仕事柄、会食でいいお店に連れていってもらったりとか、場に呼ばれることあるじゃないですか。でも、そういう「いいもの」を何回か食べたりしたら、カップ麺と缶ビールで身体戻す、みたいなことがあって。そっちのほうが自分にとっては健康的(笑)。

:そういう店って、そこまで「おいしい」と思えなくないですか? 前に貸し切りの寿司屋に呼んでもらったことがあって、「1人いくらなんですか?」と聞いたら、熱海で個室露天風呂付きの宿に二泊三日できるくらいの金額なんです。

:それ聞くと、おいしさなくなりますよね。

:ねぇ。熱海に泊まったほうが絶対いい。それでね、お店の人が「どうだ!」みたいな感じで出してくる寿司を食べていたら、「写真撮らないでいいんですか?」って言われて。

:あはは(笑)。なんか俺もそんな店で食べてたときに「まだお腹すいてますか? カレー食べます?」って聞かれたことがあって。いや、さすがにカレーは食べられないぞと思ってたら、スプーンにのって出てきたんですよ、カレーが。たしかにその量なら食べられるけど、「少な!」と。あ~、自分が知ってる世界じゃないなって思いましたね。あ、でもあんまり言うとな……おいしかったです(笑)。

:あとは「すごい人、紹介しますよ!」とか言われるのもね。たぶんすごいんでしょうけど……、穏やかに知り合いと、飯食べたいなって思います(笑)。

二勝一敗の“一敗”が最初に来たと思えばいい

 参加者からの質疑応答へ。最初の質問は「完璧主義になりがちな私に、お守りになる言葉をください」

:実は小説を書きませんか?という依頼があって、書き始めたものの、もう5、6年たっていて。脚本っていろんな人の力が加わって、映画になって完成するものだけど、小説ってそれだけで完成品じゃないですか?

 俺は名前がちょっと知られてる状況で小説を書くというずるいアドバンテージがあるから、1作目だけど、めちゃくちゃ面白くしたいみたいな。ある種の完璧主義になってるんです。

:僕は完璧主義じゃないんですよ。締め切りがあると「もうしょうがないな」って感じで書いてる。僕の知り合いに「俺さ、小説家だからさ」って名乗る人がいるんですけど、書いてない(笑)。本出してないじゃんって(笑)

 そういう人って、完璧なものを書こうとしてるんだけど、完璧なタイミングなんてないし、完璧な依頼もない。完璧を求めると、どんどんできなくなる。だから二勝一敗の一敗が最初に来たと思えばいい。負けてもいいんです。

:最初って、その一試合しかないと思っちゃうんですよね。

:そうなの、負けたら終わり、と思ってる。でも勝っても負けても「お疲れさまです」って次の日行くのが仕事じゃないですか。いろんな人たちが関わっている以上、進めながら微調整、微調整でやっていくしかない。完璧主義という名のもとに自分を可愛がりすぎてる可能性が高いな、って思います。

:モト冬樹さんが主演の映画『こっぴどい猫』の脚本が書けなかったときに、モトさんが「うまくいかなかったらもう一回やればいいじゃん」と言ってくれたことがあって。同じ人ともう一回、みたいな感覚がなくて、「これ失敗したらヤバい」と思ってたから、楽になったの思い出しました。

:そういうことなんじゃないですかね、プロって。糸井重里さんから、甲子園は一回負けたら終わりだけど、プロはリーグ戦で、負けても「次の試合はこうしたい」と考えるって言われて。そんな簡単に全部ガシャンってダメにならない、いいことも悪いこともグラデーションになってるんですよ。