親用の着物も用意し家族ごとサポート
障害者の親として常に弱い立場にあり、いろいろと諦めている家族に、徹底的に寄り添う谷口さん。どんな障害の方、要望に対しても“絶対にNOは言わない”をモットーにしている。
「障害者の子どもを持つ家族は、普段から肩身が狭い思いで過ごしています。オーダーメイドの依頼に“できない”と言ったり、強い口調など、カウンセリング時に“ストレスを与えることはしないように”とスタッフに伝えています。
着物がどんなに汚れたとしても問題はありません。普段がんばっているご家族にもおしゃれしてもらいたいので、親子割引で母親向けの着物レンタルも行っています」

細かなオーダーメイドに応えるために、カウンセリングから、着物のお直し、発送、着付けのサポートまで、たくさんの時間、そしてお金もかかっているが、レンタル料金は9泊10日の送料・クリーニング代込みで12万~17万円と、低めな設定。はたして、利益は出ているのだろうか。
「はっきり言って利益は出ていませんね(笑)。事業化して3年で赤字にはならず、トントンな感じです。多くのボランティアの方にも手伝っていただき、これからもできる限り低価格で続けていきたいです」
最初のボランティア時代も含め、400人以上の人が「こころ」のオーダーメイドの着物で晴れ舞台を迎えた。中には着物を持ち込んで、余命わずかな子どもと最後に記念写真を撮ったり、見送る日のために、オーダーをする人もいるという。
多様な障害がある人やその家族と関わることで、谷口さん自身も変わった。
「もともと潔癖症ぎみだったのですが、よだれや嘔吐などで汚されても、今はまったく気になりません。どの子も、目がきらきらしてみんな可愛いと思えます。レンタル事業のきっかけになった教え子のように、障害者とその家族の日常は、理不尽なトラブルが少なくないため、家族を支え、一緒に闘うための相談サポートも行っています」
障害者とその家族が笑顔で過ごせる、あたりまえの未来へ。谷口さんは、明るくポジティブにその道を切り開き進んでいく。
取材・文/小林賢恵