教育現場から作品が見えなくなりつつある

戦争でいちばん先に被害を受けるのは市民であり、そのことが描かれた『はだしのゲン』を読んでほしいと語るミサヨさん(撮影/山田智絵)
一方で、日本国内では子どもたちの目から遠ざけられつつあるのが現状だ。広島市の平和教育副教材「ひろしま平和ノート」から『はだしのゲン』が削除され、また図書室での閲覧制限をかける学校も出現している。描写が過激だ、今の時代にそぐわない、などを理由としているが─。
「上のほうでいろいろ言う人はいるけれど、読者の方たちは好意的に受け止めてくれています。実際、子どもだってちゃんと読めばわかるんですよね」
市民の中から「『はだしのゲン』削除の撤回」を求める署名活動が起こり、多くの署名が集まった。NPO法人「はだしのゲンを広める会」も活発に活動を行い、漫画の精神の普及に尽力している。
『はだしのゲン』を語ること、それは原爆を語ることだ。
「夫が『はだしのゲン』を描く前は、原爆という言葉を口にすることすら難しかったのが、今は被爆者自身が実体験を話せるようになりました。これは大きな違い。話せるということは、平和が続いているということだから、どんどん話していただきたい」
戦後80年がたつ今、戦争をリアルに知る日本人は少ない。しかし国外へ目を向けると、ロシアのウクライナ侵攻に、ガザでの紛争と、近年は不穏な動きが目立つ。
「日本では戦争が起こらないと思ったら大間違い。油断できない、だからしっかり世の中を見て、上の人間が間違っていたら市民が怒らなくちゃいけないんだと、夫がよく言っていました。
いちばん先に被害を受けるのは市民です。実際、80年前の原爆で子どもたちは夢も未来もみんな閉ざされて死んでいった。けれど次の世代の人たちはその事実を全然知らない。みなさんにぜひ『はだしのゲン』を読んでもらいたい。原爆の怖さを知り、夫の思いを引き継いでもらえたらと願っています」
取材・文/小野寺悦子 撮影/山田智絵