予測不可能な介護現場のコント劇場

 シフト制で時間の融通がつきやすいこともあり、介護との二足のわらじで活動する芸人は少なくない。

「『メイプル超合金』の安藤なつさんは介護現場歴20年以上ですし、介護芸人が集まってトークライブをしたこともあります」

 トークライブで語られるのは、“介護現場あるある”のエピソード。利用者とのやりとりの中には、思わず笑ってしまう場面も多い。

「語弊はありますが、認知症の方っておもしろいんです。動物の幻覚を見るおばあさんがいて『部屋に猫がいて眠れない』とおっしゃる。こういうとき、相手の言葉を否定しちゃダメなんです。だから『どこにいます?』と聞いて、指さす方向に向かって“しっしっ”て追い払ったんです。そうしたら今度は『イタチがいる』と。

 これも追い払うと、次はキツネと……。で、こっちも調子に乗って『馬がいますね』と言ったら『ほんとだ、馬が来た』と。どれだけこの部屋に動物がいるんだってなって(笑)。さらに悪ノリして『象が来た!』って言ったら『象はいない』と却下されちゃいました」

 認知症の人への寄り添いは介護の基本。特徴的な症状のひとつである短期記憶障害による言動にも、とことん付き合う。

「コントでもよくある“ごはん食べたでしょ”問題。食べてもすぐに忘れてしまって『ごはんはまだか』と言い出すおじいさんがいたんです。『もう食べたでしょ』と言っても暴れちゃうので、半量にして2回出すという方法にしてみたんですが、2回目を食べ終わると、また『ごはんはまだか』になっちゃって失敗。

 そこで、食べ終わった食器を下げない作戦に出たんです。しばらくは食器を見て“食べた”と理解できていたんですが、今度は空の食器を見ても『これは私のじゃない』と言うようになって逆戻り。そこでさらに、食後に“食事の感想文”を書いてもらうことにしたんです。認知症でも、自分の筆跡はわかるらしく、『これは私のじゃない』とは言わなくなって、やっと“ごはんはまだか”のループがなくなりました