p.p1 {margin: 0.0px 0.0px 0.0px 0.0px; text-align: justify; font: 13.0px Helvetica} 悩む自分をすくい上げてくれた“人”と“月”

 しかし現実は厳しかった。毎日路上で巨大な越前和紙に筆を走らせてはみたものの、忙しいニューヨーカーたちは足早に通り過ぎるだけ。

 雨が降ると和紙が破れ、墨だらけになることも一度や二度ではなかった。

「ライブを行わない日は、ギャラリーを回って展示会の売り込みにも精を出しました。しかし500店舗ほど回ってみても、どこも作品はおろか話さえ聞いてくれない。これがニューヨークでの現実でした

ニューヨークでパフォーマンスをして自身の感性を磨いていった (c)MAGOCREATION
ニューヨークでパフォーマンスをして自身の感性を磨いていった (c)MAGOCREATION
【写真】「電子廃棄物の墓場」真護が活動に励む衝撃のスラム街

 このままこの生活が続くと心が蝕まれていくのは目に見えていた。

「どうせ絵が売れないのなら、名画がたくさん残るヨーロッパで武者修行を続けよう」

 そう考えた真護は心機一転、1年半に及ぶアメリカ生活を切り上げ、渡航費用を工面するために日本へ一時帰国した。

 これが真護に、思わぬ幸運をプレゼントすることになる。神様はまだ、真護を見捨ててはいなかった。

「越前和紙に水墨で女性の横顔を描いた作品を見たとき、めちゃくちゃ良くてビビッときた。この人はこれから絶対世の中に出る人だと思いました

 そう語るのは、リグナ創業者で投資家の小澤良介さん

 アートコレクターでもある小澤さんが家具やアート、カフェなどが入ったライフスタイルショップ『リグナテラス東京』で真護のために個展を開いてくれた。

「最初は絵でお金儲けをしたい人なのかと思った。でも話してみると自分なりの思想を持って取り組んでいる。ただの絵描きじゃないことがわかりました」(小澤さん)

 真護の絵を見てただ者ではないと見抜いた人がほかにもう1人いた。世界的なおもちゃコレクターで、現代アートにも造詣の深い北原照久さんだった。

「君の作品には魂を感じる」

 北原さんは真護が東日本大震災の後に描いた絵画を気に入り、1枚買ってくれた。それだけではなく神奈川県佐島にある、相模湾を一望できる自身の別荘にも招き入れてくれた。

 歴史的な建造物に加え、北原さんが収集し、展示されたさまざまなアート、壮大な海の情景に真護が酔いしれていると、

「これからは夢を現実にしている人間と一緒にいなさい。ネガティブな人間と一緒にいては絶対ダメ。それが現実になってしまうから」

 北原さんは、そう夢を実現する心構えを語っていた。そんな真護の忘れられない言葉がある、と彼は振り返る。

「真護君は、当時からアートで世界を変える。世界の3大画家『ピカソ、ゴッホ、真護』になると夢を語っていました」

パリでパフォーマンスをして自身の感性を磨いていった (c)MAGOCREATION
パリでパフォーマンスをして自身の感性を磨いていった (c)MAGOCREATION

 ビッグマウスはいまだ健在。こうした出会いが真護にさらなる飛躍のチャンスを与えた。30歳を前に訪れたヨーロッパを巡る旅で、真護はあるヒントをつかむ。

「バルセロナでは、サグラダ・ファミリアを設計したアントニ・ガウディの圧倒的なデザイン力と、パブロ・ピカソの卓越したリアリズムを通してたどり着いたキュビズムに圧倒された。この2人の作品を通して、自分はまだ中途半端な表現の世界にとどまっていることを突きつけられました」

 画家として先人たちの名作と対峙すること3か月。資金を使い果たした真護は帰国すると福井の実家にこもり、創作活動に没頭する。

 そしてヨーロッパ武者修行の成果なのか、美人画の代表作を次々に発表していくことになる。

「大量消費社会への疑問を訴えかけた『無精卵を被る女』、人を産まないための道具コンドームを拳銃にかぶせた『2丁拳銃の女』は高い評価を頂き、その売り上げで築50年のマンションを借りることができました」

 だが、ヤドカリ生活に別れを告げたばかりの真護に、ショッキングなニュースが飛び込んでくる。

 '15年11月に起きた「パリ同時多発テロ」である。

 犠牲者は130人にも上るテロ事件史上最悪の惨劇。生と死や世界平和をテーマにした作品を多く手がけるようになっていた真護は、急きょ再びパリを訪れた。

「いちばん被害に遭ったバタクラン劇場のテロ現場を訪れると、何十発にも及ぶ弾痕が生々しく残されていたんです」

 そのころ、反戦のメッセージを込めて『2丁拳銃の女』を描いたばかりの真護は、こんな女性の裸の絵を描いている自分に嫌気が差し、今後の人生を考え直そうとパリの安宿に閉じこもった。

「するとある夜、窓から何げなく見上げた夜空に満月が浮かんでいたんです。もし途轍もない満月が佇んでいたら、その日ばかりは悩みや野心を忘れ、みんな月を眺めるに違いない。そんな日の一瞬に平和が訪れるのではないか

 そんな思いから真護は、『世界平和の空気清浄器、満月』を発表。

 当時ギャラリストの間では「今さら月?」「使い古された題材」と酷評されたが、真護の「満月シリーズ」は、今や一点2000万円を超える作品も生まれ、ガーナのゴミを使った作品に次ぐ代表作となった。