p.p1 {margin: 0.0px 0.0px 0.0px 0.0px; text-align: justify; font: 13.0px Helvetica} 芸術で向き合う自然環境と廃棄物問題
真護のパリ再訪は、人気の「満月シリーズ」を生んだだけではなかった。パリ滞在の最終日、画家の真護が社会活動家として羽ばたく、大きなヒントを手に入れた。
それが自然環境を守りながら資源を効率的に循環させる「サステナブル」という考え方との出合いである。
「アーティストの中には社会問題を提示する人たちもいます。バンクシーがその代表でしょう。ただ、現代社会のさまざまな歪みを示してはいるものの、問題自体を解決する糸口はありません。だから僕はもう一歩踏み込んで“問題解決”まで引き受けてやろうと思ったんです」
ガーナ・アグボグブロシーで真護がやろうとしていることが、まさに「問題解決」に迫る壮大な挑戦に違いない。
「電子機器の廃棄物を利用してアートを作る。作品を作れば作るほどゴミは減ります。しかもアグボグブロシーの現実を世界に向けて発信することができる。そしてアートを売ったお金で現地にリサイクル工場を造り、雇用を増やしていく。そのために自分の報酬は売り上げの5%。必要経費や税金を差し引いた後の収益はアグボグブロシーで行う事業に使う。これが、僕が考える持続可能な資本主義『サステナブル・キャピタリズム』です」
初めて訪れてから5か月後。真護は有害物質に汚染された空気から身を守るためにガスマスク250個を持って、再びアグボグブロシーを訪れた。
翌年にはスラム街初となる無料の学校「MAGO ART AND STUDY」を建設。'19年には、電子廃棄物美術館「MAGO E―Waste Museum」を開館。できあがるまでの53日間をエミー賞を受賞したカーン・コンウィザー監督が撮影して、ドキュメンタリー『Still A Black Star』として公開されている。そして迎えた'21年。真護は新たな決意を胸に現地を訪れていた。
「環境、雇用、教育、文化、エンタテインメントといったさまざまな課題を一挙に解決するためには、アグボグブロシー近郊に新しい街を建設して産業を育成する。そんなプランがひらめきました」
その計画を実行するために真護は現地法人を資本金50万ドルで立ち上げ、農業にも着手した。
「オリーブの木やスーパーフード・モリンガの木は二酸化炭素を多く吸収するサステナブルの優等生。農家からモリンガを買って製品化にも着手しています」
'21年末には小規模ながらプラスチックのリサイクル工場も完成。ビーチクリーンからピックアップした衣類から人工ダイヤモンドを作る。さらにバイク好きのガーナ人のために「MAGO MOTORS LTD.」を設立。すでに電気自動車の製造にも着手している。こうした真護の活動に心を動かされた1人が元Jリーガーでバリュエンスホールディングス株式会社社長の嵜本晋輔さんである。
「真護さんが考えている“ゴミをアートに変える活動”はまさに唯一無二。その背景にあるストーリーを聞いたとき、衝撃を受けました。この理念は“地球、そして私たちのために循環をデザインする”という弊社の理念とも合致する。'22年に上野の森美術館で開催された個展もメインスポンサーとしてサポートさせていただきました」
そんな真護を病魔が襲ったのは'24年のことである。現地を訪れた際、ウイルスに感染。日本に帰国後、「長胸神経麻痺」と診断され、右腕の動作が不自由となり、創作活動にも支障をきたしている。そんな真護に北原さんはエールを送る。
「彼は自分の利益を犠牲にしても、他人の幸福や利益を優先する“利他”の人。神の子だから、どんな苦難が与えられても必ず克服する」
'25年、故郷・福井で凱旋個展を行うために真護は、数か月間「森」とともに過ごした。
絵を描く行為そのものを奪われた真護は「表現者として生きる意味」を問うた。すると、
─筆を持てないなら、おまえが筆になればいい。
「森」はそう答えた。
越前和紙を敷きつめ、真護は自らが墨を浴び、命の記録ともいうべき大作『Moon in the Forest』に挑んだ。森の浄化の力に満たされ、真護の中で息を潜めていた創造の炎が再び燃え上がった。
絵を描くというたったひとつの喜び。その喜びこそが、やがて混沌とした世界を平和へ導く力になる。
真護は改めてそう確信した。
取材・文/島右近


















