喪失感は人類共通だから分かち合っていい

 人は生まれて必ず死ぬ。この平等感はすごい、と言葉をかみしめる猫沢さん。

「どんなにお金持ちになろうが、科学が発達しようが、死からは逃れられないということですよね。だから、喪失感は人類共通の感情であって、自分一人で抱えて生きていくものではない。

 ただ、やはりデリケートな問題であることは変わりなく、うっかり故人について語ったら傷つくこともあるので、心にしまっておこうという人もいます。

 でも私は、この人なら話せるという人を見つけて思い出話をしたり、小林さんと私のように手紙(文章)のやりとりをして、喪失感を共有してもいいと思うのです。一人で抱え込まなくてもいい」

 そのうえで、故人を偲ぶことを、ポジティブな力に変えていきたいという。

「大切な存在を亡くしたとき、周囲の色彩が白黒になった気持ちでした。時間がたつにつれ、だんだん色がさしてきて、周囲の色が増えていく。それに罪悪感を感じないで、自分に対してもう一度、エネルギーを注いでいくことが、真の弔いであると知ってほしいですね。

 なんて偉そうに言っている私ですが、今でも亡くなった人たちを思い出して、よく泣いています。小林さんに『今でも泣くよね』と言うと、小林さんもぽつりと『泣くね』って。『泣かなくなる日はないだろうね』って。

 でも、そういう苦しみが全くない人生というのも、どうなのでしょうか。やはり、心から号泣できるとか、胸を突かれるとか、そういう人間らしい感情に落とし込んでくれる大切な存在が私の人生にいたことが、どれだけすごいことなのか。

 涙は悲しいときだけじゃなく、その存在に出会って、共に時間を過ごしたことを思い出して、胸打たれるからこそ流れるということを、心に刻んでおきたいですよね」

 本の発売以来、多くの方々から感想をもらったそうだ。「『大切な人を亡くしても、前を向いていいということに気づいた』とおっしゃる方も。その気持ちを共有できたことがうれしいと思います」

 この本を誰かから渡されても、すぐに読まなくてもいい。読みたいと思える時期がきたときに開いてくれたらいいと、猫沢さん。その言葉どおり、いつか必要になったときのために、そばに置いておきたい一冊だ。

真夜中のパリから夜明けの東京へ』集英社 税込み1870円

妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』がベストセラーとなった編集者・小林孝延氏と猫沢エミさんが、喪失感と再生について言葉を交わす往復書簡。

真夜中のパリから夜明けの東京へ』集英社 ※書籍名をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします。
【写真】手紙のやりとりでお互いの心を開示したおふたり
猫沢エミさん●ねこざわ・えみ ミュージシャン、文筆家。2002年から2007年までパリに住んだのち帰国。その後、フランス文化に特化したフリーペーパー『BONZOURJAPON』の編集長を10年間務める。超実践型フランス語教室『にゃんフラ』主宰。
猫沢エミさん●ねこざわ・えみ ミュージシャン、文筆家。2002年から2007年までパリに住んだのち帰国。その後、フランス文化に特化したフリーペーパー『BONZOURJAPON』の編集長を10年間務める。超実践型フランス語教室『にゃんフラ』主宰。

教えてくれたのは……猫沢エミさん●ねこざわ・えみ ミュージシャン、文筆家。2002年から2007年までパリに住んだのち帰国。その後、フランス文化に特化したフリーペーパー『BONZOUR JAPON』の編集長を10年間務める。超実践型フランス語教室『にゃんフラ』主宰。『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』『猫と生きる。』『イオビエ』など著書多数。2022年に、2匹の猫とともに再びパリに移住。


取材・文/池田純子