旅行をするように本の中に旅をする

 陽日のパートでは、ツナサンドイッチ、にんじんごはん、ミートボールといったお弁当を食べる場面が描かれている。江國さんは、自身の学生時代を思い出しながら、陽日のお弁当を考えたそうだ。

「栄養バランスや彩りを考えて毎日お弁当を作るのって、本当に大変なことだと思います。私が中高生のころに母が作ってくれたのは、ほうれん草のおひたしとか根菜の煮物とか、全体的に茶色いお弁当でしたね。ちなみに、私がミニトマトの存在を知ったのは中学時代で、お友達のお弁当がきっかけでした(笑)」

 ムーミン谷のように、本作には多くの人々が登場しながら物語が進んでいく。そのうちのひとりが、あやめとともにピンクの家で育った真実子だ。諸事情によって戸籍上の年齢と実年齢に5歳の差があり、結婚は4度目という経歴で、現在は火葬場の接待係として働いている。

「彼女の職業が、この小説の支えになっていると感じています。普段は考えないけれど、火葬場ってちょっと特別な場所ですよね。大切な人を最後に見送る場所。

 そこに一人だけで来る人もいるだろうし、骨を拾わずに帰る人もいるだろうし。火葬場独特のモノトーンのような感覚や不思議さを今回、小説に書くことができてよかったと思っています」

 物語を読み進めるうちに、おそらく誰もが自分の中にも“外の世界”と“内側の世界”があることに気づくだろう。

「外と内(中)の概念っておもしろいですよね。本の中と外とか、家の中と外とか、どこを見ても境目だらけです。でも私は、全部がつながった物語のような気もしているんです」

 そんな江國さんにとっての“内側の世界”とは?

「私はお風呂が好きで、午前中はずっとお風呂で本を読んでいます。そこだけは完全に自分だけの世界ですし、私にとってはお風呂が内側に近い場所かもしれないですね」

『外の世界の話を聞かせて』では、南天文庫のほかにインドネシアや夜の飲食店、昔のピンクの家などさまざまな場所が舞台となっている。

「本を読むことは旅行に似ていて、居ながらにして違う場所に行くことができると思っているんです。本書を手に取って、『外の世界の話を聞かせて』の中に出かけてもらえたらうれしいです」

最近の江國さん

「ここ4~5年ほどヨガにはまっていて、今日もこのあと行きます。あと、相変わらず本ばかり読んでいて、最近はあまり読まないタイプの本にも手が伸び、書評で知った『自分とか、ないから。―教養としての東洋哲学』を読みました。おもしろかったです。普段読む本は、本屋さんで気になったタイトルのものを、ジャケ買いみたいに選ぶことが多いです」

江國香織(えくに・かおり)/1964年、東京都生まれ。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で第15回山本周五郎賞、'04年『号泣する準備はできていた』で第130回直木賞、'07年『がらくた』で第14回島清恋愛文学賞、'10年『真昼なのに昏い部屋』で第5回中央公論文芸賞、'12年『犬とハモニカ』で第38回川端康成文学賞、'15年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で第51回谷崎潤一郎賞を受賞。『きらきらひかる』『彼女たちの場合は』『ブーズたち鳥たちわたしたち』など著書多数。

取材・文/熊谷あづさ