誹謗中傷にも負けず!借金をして寺の建立へ

落語家・道心寺住職、露の五九洛さん(撮影/伊藤和幸)
落語家・道心寺住職、露の五九洛さん(撮影/伊藤和幸)
【写真】「寝るときは手をつないでます」という夫の大治朗さんと

 10代では名前の件で裁判、20代では僧侶に、そして30代ではペーパー離婚して事実婚に。自分の気持ちに正直に生きる姿勢が浮かび上がってくる。

 道心寺の総代も務める弁護士の津久井進さん(57)はこう話す。

「彼女は理不尽にとことん立ち向かっていく人ですね。'16年ごろ、彼女を誹謗中傷するメール、電話、ファクスが、天台宗や上方落語協会、所属事務所などに送りつけられる被害を受けたことがあったんです。人気商売だからなどと諦めず、名誉毀損にあたることから、警察へ届け出ました。これには、同業者が今後同じような被害にあわないためにという思いもありました」

 結果、誹謗中傷を繰り返した人物は2度逮捕され、平穏な日々を取り戻した。

 団姫さんは僧侶になって以降、ずっと悩み相談会を行っているが、対応の仕方に彼女らしさが垣間見えるという。

「もちろん相談者に寄り添うんだけど、彼女の真骨頂は、笑いと笑顔に着地させてくれるところだと思いますね。笑って前を向く。そうして明るい方向に導ける。彼女はクレバーなので、最高の言葉を選ぶんです」

 僧侶になった当初は、悩み相談を喫茶店などで行っていたが、秘密の保持や話しやすさを考えると、お寺があったほうがいいと、10年以上前から、寺建立の計画を練ってきた。

 しかし、ちょうど今の場所を見つけたとき、コロナ禍に見舞われた。仕事が途絶え、苦境に立たされたが、浄財を集め、貯金と借金でお寺づくりを諦めず進めた。

「お坊さんになったとき、“カネのためと違うか”と揶揄していた人たちも、私が借金をしてお寺を開いたことを知って、見方が変わりました」

 資金集めや借金のことを後になって知った友人のぽんぽ娘さんは、こう語る。

「私の妹が難病で、肝臓の移植が必要だと言われたとき、ドナーが見つかった場合にかかる費用を緊急で集めなければならなくなったことがあり、真っ先に義援金を呼びかけてくれたのが団姫姉さんだった。

 姉さんが声をかけると、たくさんの人が動くので、すごく助けていただきました。団姫姉さんにしてみたら、それだけお世話をしたんだから、私に“お寺の寄進お願い”と頼んでもおかしくないのに、言わないのがすごいところです」

 '25年12月、団姫から五九洛に改名した。師匠・団四郎の三代目五郎襲名に合わせたのだ。

 五九洛さんは「本業は落語家です」と言い切る。収入も落語によるもので、住職としては給料は0円。落語で稼いだお金で道心寺を運営し、悩み相談や縁日寄席を展開している。法要は数えるほどしかないという。

「私、葬儀に向いていないんです。葬儀などでまじめに人の前に出る顔がないのでね。ニカッと笑って高座に上がる顔しかないんですよ(苦笑)」

 ここまで読んだ人は、五九洛さんのメンタルの強さが印象に残ったかもしれない。しかし、弱い部分も実はある。

 まず、飛行機が大嫌いで、できるだけ車や鉄道を利用して移動するようにしている。

 もう1つは出張先のホテルで1人で泊まるのが怖いことだ。

「理由ですか? 幽霊が出るんじゃないかとガチで怖がっているんで。どうしても泊まりになる場合は、夜中ずっと夫とLINEでつながっています。実は家で寝るときも夫と手をつないで寝ています」

 強さだけでなく、弱さも隙もある。死が怖いお坊さん。そんな人だから相談しやすいのかもしれない。

 道心寺のご本尊は明星観音。虚空蔵菩薩の化身で、人々を暗闇から明るい世界へと導いてくださる仏様である。そして祭壇に向かって左に鎮座するのが、不軽菩薩だ。

「お釈迦様の前世のひとつが不軽菩薩なんです。この仏さんは人を軽んじない。どんな人に会っても、頭ばっかり下げているので、バカにされて石を投げられたりすることもある仏さんなんですが、それでも頭を下げ続けて、どんな人も大切にした。私もそんなお坊さんでありたいです」

 人を軽んじず、悩みを「笑い」に変える。その生き方は、落語が持つ救いの心と響き合い、2つの道をしなやかに歩む姿となって、人々を幸せにしている。

<取材・文/西所正道>

にしどころ・まさみち 奈良県生まれ。人物取材が好きで、著書に東京五輪出場選手を描いた『五輪の十字架』など。2015年、中島潔氏の地獄絵への道のりを追ったノンフィクション『絵描き︱中島潔 地獄絵一〇〇〇日』を上梓。