弱点は武器!「天空のオアシス」で大逆転
'09年ごろから、中村さんは日本初の「水族館プロデューサー」を名乗り始めるが、その名を轟かせたのが、'11年にリニューアルした東京・池袋にあるサンシャイン水族館である。
最大のネックは60階という高層ビルの最上階に位置する水族館なので、重量の問題があって、大水槽がつくれないこと。マックスは240トン。美ら海水族館の黒潮の大水槽は7500トンだから30分の1だ。ところが……、
「デッカく見せる方法、あるんです。“ホリゾント”効果。ひと言でいえば光のグラデーションです」
ヒントは鳥羽水族館時代に知人に誘われていやいや見た舞台『オペラ座の怪人』にあった。
「舞台の光の当て方に“なんやこれ”となったわけです。色のグラデーションによって、実際よりも広く、奥行きを感じさせる。光で自在に奥行き感を演出できる。これは水槽に応用できると直感しました。舞台のストーリーなんてそっちのけでした(笑)」
その技を存分に活用したのが、大水槽「サンシャインラグーン」。手前は明るい太陽色照明と白いサンゴ砂によるエメラルドグリーン、そこから奥に向かって徐々に照明を暗くすることで奥行きができ、さらにコバルトブルー、濃紺、そして暗い漆黒へとグラデーションをつけていく。それにより、どこまでも広がる海の雰囲気が醸し出されたのだ。
屋根のない炎天下の屋上に、ヤシの木など植物を植えて緑化。地上2・3メートルの高さにドーナツ状の水槽を設置し、アシカを飼育することに。「アクアリング」である。
「見上げると、空が借景になっているんです。だからアシカが空を飛んでいるように見える。のちに“天空のペンギン”も登場しましたが、それも同じ原理です」
水族館の入り口も斬新だった。エレベーターを出たら、目の前に滝がある。水族館の入り口に行く途中にトロピカルな植物が繁茂して、トンネルをくぐると水族館に到着する。南国のリゾートホテルの雰囲気にしたかったという。
中村さんが考えたキャッチコピー「天空のオアシス」そのものだった。
無事リニューアルを終えたとき、「この人がいなければ成功はなかった」とつくづく思ったのが、水族館の親会社・サンシャインシティの社長(当時)、鈴木誠一郎さんだ。鈴木さんは中村さんからリニューアルのプレゼンテーションを聞いたとき、こう考えた。
「山手線からいきなり南国の世界に誘われるようなストーリーに惹かれて、これに賭けようと思いました。しかし、かかる費用は約30億円。幹部から『前代未聞だ、大丈夫か』と釘を刺されたんです」
しかし当時のサンシャインシティは空室率が10パーセントを超え、最盛期200万人いた水族館の入館者数も、'09年決算の段階で70万人まで落ち込んでしまっていた。
「水族館はサンシャインシティのシンボルです。このままでは早晩ダメになって、100人ほどの水族館の従業員が路頭に迷う。それでいいのかと、その幹部に言ったんです」
このリニューアルは大人気となり、来館者数は3倍増の224万人を超え、投資額は1年で回収した。
「最初は現場の人間と衝突することもありましたが、中村さんはプロですね。確固たる信念を持っておられて譲らなかった。中村さんとの出会いがなければ、当水族館は衰退しているか、廃業していたかもしれません」(鈴木さん)
大きな水槽を置けないという弱点を見事プラスに転じた中村さんはこう語る。
「弱点を克服せよなどとよく言われますが、違います。弱点は武器にするもの。そうすることで新しいものをつくり出すことになるのです」



















