目次
Page 1
ー 石井ふく子先生の隣で「緊張しました」
Page 2
ー 紅白歌合戦の司会を5回務めたことも
Page 3
ー 動物たちといるのは私にとって自然なこと
Page 4
ー 犬たちを渡すときは花嫁の父の気持ち

 栃木県那須塩原市にある小さなジャズサロンを、ハスキーボイスが包み込む。雨と土で汚れたスニーカー、洗いざらしのデニムに無造作に片手を突っ込み、囁くように歌っている彼女こそ、昭和40年代の芸能界に彗星のごとく現れ、スターダムに駆け上がった伝説の歌手、佐良直美だ。

 1曲歌い終わると、表情を一変させ、

「10円ちょうだい!」

 ニコッと笑って手を差し出した。

 面食らう取材陣に、その由来を話し始めた。今はなき東京・有楽町の日本劇場(通称:日劇)でのエピソードが元ネタだという。

 当時のショービジネスの世界では、日劇に出演することがステータスだった。ここの楽屋口には、出演者が出入りするたびに、「10円ちょうだい!」と呼びかける名物のホームレス男性がいたが、彼は舞台で活躍する者にしか声をかけなかったため、いつしか彼にねだられたら一人前、というジンクスができたという─。

石井ふく子先生の隣で「緊張しました」

 佐良は今、芸能界から身を引き、40年前ほど前に那須塩原に移住、動物愛護や犬のしつけ教室の事業に心血を注いできた。そんな彼女が2022年から始めたYouTubeチャンネル「佐良直美のいいじゃないの幸せならば」が、往年のファンのみならず、彼女を知らない世代からも「破天荒すぎる!」と話題になっている。

佐良直美 撮影/齋藤周造
佐良直美 撮影/齋藤周造

 動物たちとの日常が中心だったというこのチャンネル。ドラマ『肝っ玉かあさん』『ありがとう』『渡る世間は鬼ばかり』(全てTBS系)などを生んだ100歳の現役プロデューサー・石井ふく子氏をはじめ、俳優の松島トモ子や沢田雅美、元NHKアナウンサーの山川静夫氏、佐良を「憧れのスター」と公言してやまないミッツ・マングローブ率いる女装家集団など、日本のテレビ史を彩るビッグネームがゲストに来ることも名物の一つだ。

 ワイワイガヤガヤと、昭和の芸能界のエピソードを笑いや感動とともに話し合う。最近は佐良による歌唱指導のコーナーも人気だ。そこには「時代遅れ」という言葉が微塵も感じられない。ただ心地よい娯楽があるだけだ。その不思議な魅力の原動力とは何なのだろうか。

「私のYouTubeが面白い? 物好きな人もいるんですねぇ(笑)。動物愛護活動を知ってもらうために始めたんだけどね」

 こう飄々と答える。だが、今年9月の石井氏の百寿のお祝いパーティーでは、主役である氏の隣の席だったため、大変緊張したという。

「だって、大先生のお隣ですよ。私なんてまだまだだと思っていたのに、こんな席になるのか、と。もう一方の隣はドラマ『ありがとう』で共演した石坂浩二さん。おふたりともお元気でしたよ」