犬たちを渡すときは花嫁の父の気持ち
毎朝4時に起きて車を運転し、スタッフたちと山林に行っては野犬の保護活動を行う。エサや水を置き、1頭ずつ名前をつけて、呼びかけては様子を見る。避妊手術をしていない野犬たちはしばしば出産をするため、生まれた子犬を連れ帰ってワクチンや避妊手術をして、里親を見つける。大切に育てた犬や猫たちを引き渡すときは「花嫁の父の気持ち」だという。
「花嫁の母というのは、往々にして打算がありますからね(笑)。気分は『父』なんです」
一方、保護したときには手遅れで、命を落としてしまう野犬もいる。「今度生まれ変わったら、大切にしてくれる家庭の犬になるのよ」と声をかけ、心を尽くして弔うという。
野犬は飼い犬と違い、人間には近づかないため注意深く見守り、信頼関係を築きながら距離を縮める。毎日、同じことの繰り返しだ。歌や芸能界に未練はないかと尋ねた。
「まったくありません。この子たちの命を守りたいですから」
とはいえ、スタッフたちとともに、テレビは見る。一人の視聴者としての目線だ。
「紅白や歌番組はね……。今の人たちはグループが多くて、みんな同じ動きをする。一人の歌手が少ないのね。でも、目黒蓮くんって子は感じがいいわね。華があると思いますね」
81歳となった現在も、タバコと焼酎を欠かさない。サングラスをかけてハンドルを握るさまは、映画のワンシーンを見ているようだ。
「健康の秘訣は?」と聞くことさえ愚問と感じるほど、佐良は圧倒的に若く、カッコいい。自分の信じる道を突き進み、周囲に思いやりと愛を、行動で示す。那須の自然の中で動物たちと共に暮らすことが彼女をこんなにも輝かせているのだろうか。
佐良が歌う。時間も空間も超えて、心に染み入る少し掠れた声には、「佐良直美」という一人の人間の生きざまが映し出されている。
若いころは、それだけで誰もが美しい。かの世阿弥は、若さを通り越した先に咲く花こそ「まことの花」であると語ったという。佐良のこの姿こそ、「まことの花」だろう。こんな時代だからこそ、佐良直美の歌と言葉が必要なのではないかと問うてみる。
「さぁ、どうでしょう!? 好き勝手ばかりしてきた結果だからねぇ(笑)。しかも最近は『10円ちょうだい!』って言うとスタッフには『現在の貨幣価値には合わないから、10ドルくらいに変えたほうがいい』なんて言われる始末。時代は変わっていくからね(笑)」
確かに時代は移ろいゆくもの。だが、人間だけでなく、動物たちにも光を照らす「スター」として、佐良直美は生きている。
取材・文/三尋木志保 撮影/齋藤周造


















