『渡る世間は鬼ばかり』で幕を開けた’90年代

 ’90年代は多くの嫁姑作品が放送された。’90年開始の『渡る世間は鬼ばかり』、’92年のNHK朝の連続テレビ小説『おんなは度胸』、’93年のTBS系『ダブル・キッチン』が代表例。宝泉さんが解説する。

「『渡る世間は鬼ばかり』『おんなは度胸』は、いわゆる大家族もの。飲食店や旅館をテーマにすることで、多くの人の出入りを描きました。『おんなは度胸』では嫁をねちっこくイビる姑、『渡る世間は鬼ばかり』では大姑にイビられる嫁として、いずれの役もこなしたのが泉ピン子。決して美人女優ではないため、多くの視聴者が、イビられる嫁・五月に自分を重ね合わせやすく、イジワルな姑・キミのイビリに耐える五月を見て、自分も歯を食いしばることができた。彼女でないとこなせなかった役でしょうね」

 野際陽子と山口智子がバトルを繰り広げたのが『ダブル・キッチン』。姑の野際は怒りだすと鼓を叩き、山口は物に当たり散らすシーンが印象的。当時、増え始めた二世帯住宅の話をうまくつかんでいた。ハマって見ていたという佐々木美帆さん(仮名・52歳・専業主婦)は、

「姑と見ていて気まずかった覚えがあります。わが家でも軽い嫌みはありましたが、ひどくはありませんでした。ただ、嫁姑がぶつかるシーンのたびに“私たちはこんなこと、ないわよねぇ~”なんて首をかしげる義母に、笑いそうになりましたね。それでも見るのをやめなかったおかげで、激しいイジメを受けなかったのかもしれません(笑い)」

 ’90年代の姑たちは、“嫁イビリをするなんて古い人間だ!”と思うようになり始めたのかもしれない。

「このころの橋田壽賀子作品での嫁姑関係に、視聴者はノスタルジーを感じるようになります。それは嫁が社会に出ず、夫の家に入るという時代錯誤な部分から。徐々に世相とズレてきたのです。そんな保守的な家庭環境と激しいイビリを見た嫁姑は、“わが家はここまでではない”と胸をなでおろしていたのかもしれません(笑い)」(再び宝泉さん、以下同)

 ’00年代もこの風潮は続いている。

「朝の連ドラ『純情きらり』や大河の『篤姫』でも嫁姑バトルは描かれていましたが、時代設定は現代ではなく、もっと昔。やはり、現代のものとしては受け取られず“こんな時代もあったのね”というような関心の持たれ方という印象です」