木材店を継ぐためIT企業へ

 小友が家業の木材店を継ぐと宣言したのは高校生のとき。理由がまた彼らしい。

「父親は“会社は継がなくていい。俺の代で潰(つぶ)していいから”と言ってましたが、僕は天の邪鬼(じゃく)だから“じゃ、僕がやる”と。僕にしかできないことをやりたい。木材店を継ぐのは面白いと思いました」

4歳のころ。妹、父と。「父の欲望に対してシンプルなところを尊敬していた。欲望を隠そうとする人は面倒だし嫌なんですよね」と小友

 東京の大学に進学し、就活で160社以上の会社の面接を受けたが、いずれも木材店とは関係のない業種ばかり。

「木材店を継ぐつもりでしたけど、木材の大手企業で修業をしたところで、業界は低迷している。身につけるべきスキルは、ITだと思っていました」

 選んだのはスターティアというITベンチャーの会社。

「30歳になる前に、花巻に帰るつもりでしたから、規模が小さくてキャリアが積めそうな会社を選んだ。自分が活躍したぶん、貢献度がありありと見える会社がよかった」

 ’05年4月、新卒で入社。研修終了後、配属になった新規事業部を皮切りにステップアップし、グループ初の自社商品開発を担当。その後は、電子ブック作成ツールを中心に取り扱う会社『スターティアラボ』の中心人物として、取締役となるのだが、

「執行役員に就任した翌年、僕が26歳のとき、父のがんが発覚したんです。すぐ手術をして無事でしたが、もともと“30歳になったら帰ろう”と考えていたので、そのころからときどき花巻に帰って、少しずつ親父の仕事を引き継ぐようになっていました」

 そして29歳のとき、父親のがんが再発。会社に辞意を表明したのだった。

 ところが、最高経営責任者である本郷秀之さんは、意外な選択肢を提案した。

「木材屋はそんなに忙しくないだろう。月の3分の1だけでもスターティアの仕事もできないか?」

 引き止めた理由を本郷さんが明かす。

彼が辞める、というのはうちにとって大問題でした。能力はもちろんですが、人間性が素晴らしくてね。芯が通っていて公明正大。嘘(うそ)をつかない。できないことはできないとはっきり言って“でも、ほかの方法でなんとかします”と。自分をカッコよく見せようとしないし、人を巻き込む力がある。採用面接で感じたように、まだ“一緒に働きたい”と思ったんですね

 小友の面倒見のよさにも惚れ込んでいる。

「若手の社員が残業で遅くなると、彼は自宅に泊めてあげていました。“君は人間性がいいから早死にするぞ”と冗談で言ってますけど(笑)」

東京・新宿の高層ビル21階にスターティアラボのオフィスがある

 小友が入社以来、上司であるスターティアラボ代表取締役の北村健一さんが言う。

「彼はとにかくロジカルさがすごい。ずば抜けていますね。何事もロジカルに受け止めて、ロジカルに伝える。そんなキャラだから、あだ名が“ロボ”なんです(笑)」

 上司も絶賛する小友だが、入社してわずか8か月で新規事業「電子ブック」の開発責任者を任され、苦しい思いもしている。

「2000万円の予算がついたのに失敗して。お客さんからは怒られるわ、営業からはせっつかれるわで。社内外に半年間、謝り続けていた時期もあった。でも、逃げるわけでも卑屈になるわけでもなく、“もう1回やらせてくれ”と言ってバックする。失敗だらけですけど、乗り越えられなかったことはない。努力している気もなくて、ただ楽しいからやっているだけ(笑)

 小友が入社した当時、80人だったグループ会社は、現在社員が800人で、東証一部上場し、海外進出をする企業に成長している。