近隣住民にとって孤独死する人は迷惑でしかない

菅野 現実問題として、水面下では毎日、孤独死が発生していて。特殊清掃の方って体液を処理するとかだけじゃなくて、近所の人から「クサい」とかすごい文句言われる中で作業して、本当に大変なんですよ。近所の人にとってはそういう孤独死してしまうようなゴミ屋敷の人はとにかく迷惑でしかなくて、「死んでくれてよかった」とか平気で言う人もいるし。もちろん、彼らはプロとしての仕事に徹しているので、それは目を見張るような尊い仕事ぶりですし、素晴らしいのですが。しかし、そんな“無縁の後始末”を私たちの目の見えないところで毎日引き受けている人がいると思ったら……そもそもそんな社会でいいのかなって。

岡本 長年、孤独であればあるほど鎧(よろい)を着てしまう、脱げなくなってしまうんですよね。初期の段階で居場所を持つとか、つながりを作らないと、蟻(あり)の巣のようにどんどん孤独に入って行ってしまう。これからは地域頼み、家族頼みというわけにはいかない。

──対策を進めている行政もあるんでしょうか?

菅野 そうですね。例えば、東京都中野区では、今年1月から賃貸住宅に住む高齢者へ定期的に電話で安否確認をして、亡くなった際は葬儀費用と部屋の原状回復を保証する「中野区あんしんすまいパック」の導入を始めています。足立区なども「孤独死ゼロ」の取り組みを活発化させていますね。

──民間にもサービスが?

菅野 AIやITを使って高齢者の見守りに応用しようという動きも出てきています。例えば電力会社には通常1時間遅れで30分ごとの電気量が通知されるんですが、その仕組みを利用して30分ごとに電気使用量をチェックして、見守り者にメールやLINEで通知するシステムがありますね。若い世代に向けては、スマホにダウンロードだけですぐに使用できる安否確認アプリや、LINEに友達追加して登録するだけで2日に1度、安否確認ができるLINE見守りサービスを行うNPO法人があります。

 ただ、これらはあくまで実務的な対策であって、そもそも現役世代の孤立して生きづらさを抱えた人たちは、こうした仕組みにたどり着きづらい。

同じ「孤独」をテーマにした本を上梓している岡本さん、菅野さん 撮影/矢島泰輔
同じ「孤独」をテーマにした本を上梓している岡本さん、菅野さん 撮影/矢島泰輔
【写真】髪の毛や血の塊がこびりついた床…目を覆いたくなる孤独死現場

会社や家庭以外の「サード・プレイス」が必要

──今後はどんな対策をしていくべきなのでしょうか?

岡本 このままではダメだ、何とかしなきゃ! という人が増えて、社会としての機運が高まることが必要だと思います。孤独に陥ってしまう彼らだけに責任があるのではない。地域でコミュニティーをつなぐ人や、会社や家庭以外の「サード・プレイス」が増えれば、そのネットワークにつながりを見いだす人が増えるかもしれません。

 そして難しいかもしれないけど、国が動いて、もっと孤独の状況を調査するべきです。ひきこもり、虐待、貧困など、現代日本のすべての社会問題の裏側には孤独がある。あらゆる病の奥底には孤独があると、アメリカの公衆衛生長官を務めていたビベック・マーシー氏も言っています。表面的な解決策だけじゃなくて、根元となる部分を研究していかないと。日本のようにひきこもり問題が何十年も放置されている国はほかにないですよ。

菅野 遅いですよね、いまさら。