「ねえねえ。いつ死ぬの?」

《原告が掲載した連載漫画が最終的に死ぬことになるワニを描いたものであることから、それに関連付けて投稿されたものと推測することができるが、その他にこのような投稿を行うことについての根拠が示されていることはうかがわれない》

《本件投稿と同種の内容の投稿が繰り返しされたというような事情や、本件投稿が殊更に原告を貶める意図の下にされたことをうかがわせるような事情も認められない》

《投稿は穏当ではない表現を含むものではあるものの、それが社会生活上許される限度を超える侮辱行為として原告の権利を侵害することが明白であるとは認められない》

「同種の内容の投稿が繰り返されたという執拗性がなかったという部分、また際どい判断だと思いますが、作品に関連づけられた投稿に過ぎず、“殊更に原告を貶める意図ではない”と考えられたことで、受任限度を超えておらず違法ではないと判断されたのだと思います。この判断は今回の改正後であっても変わるものではありませんが、担当する裁判官の価値判断や証拠関係によっては違う判断をするケースがあるかもしれません」

 当然ながら“執拗じゃなかったらセーフ”などと考えてはいけない。'20年5月、女子プロレスラーの木村花さんが自ら命を絶った。原因はSNSでの度重なる誹謗中傷といわれる。

 彼女の元には「ねえねえ。いつ死ぬの?」「死ねや、くそが」「きもい」などの言葉が届いていた。執拗に行っていた者もいただろうが、1回だけ送ったという者も中にはいただろう。

自身への誹謗中傷に対して「対処する」としたきくち氏のツイート
自身への誹謗中傷に対して「対処する」としたきくち氏のツイート
【写真】『100日後に死ぬワニ』の作者が誹謗中傷に対して行ったツイート

「送ったその人にとっては一度のひと言でも、それが積み重なって傷つくという事情があると思います。被害者側としては、誰がしたかは関係なく、多くの人に言われたことですごく傷つくわけですから」

 基準は変わらずとも、開示請求は“時間がかかる”という認識を持つ人が少なくなかったため泣き寝入りの状態の人も多数いたはず。手続きが簡略化され、かつお金をかけて裁判をしても情報がなくなっていたというリスクもなくなったため、今後は誹謗中傷者への法的責任の追及は活発化すると見られる。

 大事なのは“この程度の言葉なら大丈夫”と認識できるような基準や線引きではない。大切なのは画面の向こうの“誰か”だろうが、対面している“この人”だろうが、相手を傷つけるような表現をしない、という思いやりだろう。