散歩が日課で電話番号も言えた父

江東さんと両親。認知症発症後に飼い始めた愛犬と。仲良し家族だった(家族写真提供/江東愛子さん)
江東さんと両親。認知症発症後に飼い始めた愛犬と。仲良し家族だった(家族写真提供/江東愛子さん)
【写真】1年半ものあいだ行方不明の江東さんの父

 今年9月、認知症による行方不明者家族を支援する全国初のNPOが長崎市で発足した。その名は「NPO法人いしだたみ・認知症行方不明者家族等の支え合いの会」。冒頭に登場した江東さんが同法人の代表者だ。“いしだたみ”は父親がオーナーを務め、家族で営んでいたレストランの名前からとっている。

「私自身も含め、認知症行方不明者の家族はさまざまな困難や苦悩を経験しています。同じ境遇を持つ当事者同士がつながり、心のよりどころにできる場をつくりたくて会を立ち上げました。当事者家族の集いや相談、啓発活動などが主な事業内容です」(江東さん、以下同)

 軽度の認知症を患っていた江東さんの父親、坂本秀夫さんが、行方不明になった経緯を聞いた。

 前述したとおり、夕方の散歩が事の始まりだった。

「父は散歩が日課でした。その日も朝、昼と散歩し、帰宅しています。夕方もいつもどおり散歩に出かけ、夕食前に戻るはずでした」

 坂本さんは長崎市内でレストランを経営し、長年シェフとして腕を振るった。2012年、62歳のときに若年性アルツハイマー型認知症を発症したが、6年ほど仕事を継続。引退後、デイサービスに通う日々でも、認知症の進行は緩やかで軽度なままだったという。そして失踪当日を迎える。

「散歩からの帰宅が遅いため、母が心配して父の携帯に電話をかけたんです。父は『いま帰りよる!(いま帰っているよ!)』と、いつもと違う強い口調で応じ、すぐ切ってしまった。同様のやりとりを3回ほどした後、充電が切れたのか電話がつながらなくなってしまって……」

 こうして警察への連絡を決意し、いざ捜索が始められた。だが手がかりはなし。残された家族はここから孤独な闘いを余儀なくされることになる。