「早く知っていれば」同じ後悔を減らしたい

 江東さんは先のNPO法人を通じ、認知症行方不明者の家族に向けて有益な情報を発信している。

「行政の支援制度を知り、頼るのが第一です。認知症行方不明者の捜索協力を求められる『SOSネットワーク』はその代表格。私の場合、父が行方不明になったあとで知り、もどかしい思いをしました。一方、行政に不満を感じる点も。行方不明者の年金はストップされ、それが世帯主だった場合、残された家族は経済的な苦労を強いられます。行方不明から7年で提出可能な死亡届を出せば年金再開となるものの、亡くなったと認めたくない家族にはハードルが高い。加えて年金一時中止でも介護保険料の請求は止まらない。その他課題は多いと思います」

 前出の結城先生は「介護は情報戦」とし、認知症介護は最たるものと指摘する。

「どれだけ介護情報を得ているかで明暗が分かれるということです。自分の親が認知症かもしれないと思ったら、徘徊などする前に、最寄りの地域包括支援センターに相談に行ってサービスを紹介してもらうこと。また、認知症患者やその家族のコミュニティーである『認知症カフェ』に足を運び、交流するのもいい。自ら積極的に情報を取りにいくことが大事ですね」

 いまだ父親が行方不明の江東さん。行方不明から1年半が経過したが、絶対どこかにいると信じている。

「私たちと同じ苦しい思いをする家族を減らしていきたい。そう強く願って活動を続けていきます」

備えとして知っておきたい!

SOSネットワーク

高齢者が認知症等で行方不明になったとき、地域の生活関連団体等が捜索に協力して、速やかに行方不明者を見つけ出す仕組み。全国の自治体で実施されている。認知症等で行方不明になる可能性がある人の情報を事前登録するのが原則。行方不明が発生した際には、タクシー会社などの協力機関(自治体により異なる)に情報が共有される。

NPO法人いしだたみ・認知症行方不明者家族等の支え合いの会

記事に登場する江東愛子さんが代表を務める長崎市の団体。HPでは「もしも行方不明になった時に実施できること」と題し、実体験を踏まえた情報発信や捜索方法などを紹介している。「今年10月26日、オンラインで第1回の当事者家族同士の集いを行いました。同じ境遇の人を減らしたいという思いは、皆一致しています」(江東さん)

結城康博先生 淑徳大学総合福祉学部教授(社会保障論、社会福祉学)。介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員の仕事に従事した経験を持つ。最新著書『介護格差』をはじめ、介護関連の著書多数

<取材・文/百瀬康司 家族写真提供/江東愛子さん>