トラブルだらけのアジア放浪の旅
いよいよ1人になり、手ぶらになった古舘は、サカナクション・山口に命じられたとおり、タイ→カンボジア→ベトナム→ラオス→中国→バングラデシュ……と、カトマンズを目指すことになる。藤川は、旅立つ前の古舘から、相談を受けたそうだ。
「『大丈夫かな、大丈夫かな』と言うので、『大丈夫だよ』と答えましたけど。ただ、異常な潔癖症なのが心配で。学生時代の話ですが、古舘くんの部屋に入るときって、絶対着替えさせられるんですよ。友達用の着替えが用意してある。僕だけじゃなくて、彼女が遊びに来たときも。『同じ扱いなんだ?』とびっくりしたのを覚えてます(笑)」
旅に出た古舘が最初に決めたことは「とにかく毎日3つ『今日はこれをやる』とタスクを自分に課す」だった。
「最初は『売店で水を買う』で、『買えた! 俺は強い!』と自分に言い聞かせて。自分で計画を組んで、そのとおり進めるのは得意なんですよ。でも、この旅のヤバいところは、予定がないこと。どこに行っちゃいけないかもわかんない。予定を組んでもそのとおりにいくわけがない。僕の性格と真逆なんです」

でも、だからこそ、この旅には意味があると、途中でわかってきたという。
「人生って計画どおりがすべてじゃないし。僕は人を振り回すばかりで、自分が振り回されたことはなかったのかなと。旅ではちゃんと振り回されたので。新鮮でしたよね」
行く先々でぼったくりに遭い、欲しくもない土産を売りつけられる。ラオスでは、かわいい少年たちに手を引かれ、連れていかれた先が売春宿で、中学生の年にも満たない少女を買えと言われ、彼らの現実にひどくショックを受けた。
ネパールからインドにバスで入国しようとしたら、国境で「このビザでは陸路での入国は不可能だ」と、自分だけバスから放り出された。やっと入国できたインドでは、人っ子ひとり通らず電波も届かない山岳地帯で、レンタルスクーターのキーを紛失。「あ、このままだと凍死だ」という極限状態を味わう。奇跡的にキーは見つかったが、帰り道で転倒し、右足を負傷する─。

周囲に反対されながら、ガンジス川で沐浴もした。初日は汚い宿でパニック状態だったが、インドで寝台列車に乗るころには、壁を這う無数のゴキブリを指ではじき飛ばせるようになっていた。
前出の椎木も、彼の旅のインスタを追っていた。
「旅する前の10倍、20倍の『いいね』がついていて、『やっぱりそうだよな』と。この人が逆境にいるとき、ストレスがかかっているときに書く文章って素晴らしい。The SALOVERSのころに見ていたフルくん(古舘)の姿を思い出しました。ずっとイライラしてる顔で、イライラした言葉を選んで歌っていたころのフルくんと同じで、本来持っている力を発揮できているなあ、と」